インドネシア・ジャカルタにおけるGSMaP衛星雨量に基づく洪水氾濫解析
- Keywords:
- GSMaP, Flood inundation simulation, Rainfall runoff simulation, Jakarta, Indonesia, Chiliwung River
ジャカルタ特別州はインドネシアの首都であり,世界的にも河川洪水などに対して脆弱な都市のひとつである.近年ジャカルタでは,1996年,2002年,2007年,2013年,2020年に大規模な洪水氾濫が生じ,多くの死者や避難者,経済的な損失が生じている.今後も都市の拡大にともない上流域の市街化や海岸付近の地盤沈下が継続することが懸念されており,地球温暖化による極端気象の増加と相まって,洪水氾濫リスクが増加するものと危惧されている.このような状況では洪水予測システムの構築が重要とされているが,降雨予測精度そのものの低さ,レーダ雨量システムのメンテナンスの難しさ,ジャカルタ河川の洪水到達時間の短さなどにより,有効な予測手法が存在しないのが現状である.よって本論文では,衛星雨量のGSMaP (global satellite mapping of precipitation)に着目することで,衛星雨量を用いた準リアルタイムでの洪水氾濫解析が可能か検討を行った.
本論文では,GSMaPのプロダクトとして,準リアルタイムでデータが提供されるNRTと後日に地上観測データで補正されるGauge V7の二つを使用して,現地観測雨量データと比較するとともに,降雨流出・洪水氾濫解析を実施した.降雨流出・洪水氾濫解析には,従来から著者らが使用しているサブ分布型のモデルを使用した.本モデルは都市,山地を問わずに土地利用と降雨の関係から中間流,表面流が計算される.
本論文の解析結果より,ジャカルタではGauge V7データを使用することにより,過去の洪水氾濫事例の再現はある程度の精度で実施可能であるが,NRTデータを使用した準リアルタイムでの洪水予測は精度が低いことが明らかとなった.熱帯都市域での対流性降雨を衛星雨量で正確に推定するためには,衛星雨量の推定精度を改善する必要があることが確認された.しかしながら,Gauge V7データを使用することで都市域のジャカルタでも洪水氾濫解析が実施できることが示されたことは,衛星雨量GSMaPのデータの不足した地域での有効性を改めて示したものと考えられる.