日本語要旨

MAX-DOAS法を用いた多成分連続観測による2013-2019年の千葉とつくばにおける大気境界層オゾンの変動解析

2013年から2019年までの7年間、千葉市とつくば市において、我々は独自の多軸差分吸収分光法(MAX-DOAS法)を用いた地上リモートセンシングによる大気境界層(PBL)中のオゾン(O3)、二酸化窒素(NO2)、ホルムアルデヒド(HCHO)濃度の連続観測を実施した。NO2とHCHOはそれぞれ、O3の主要な前駆気体である窒素酸化物(NOx = NO + NO2)と揮発性有機化合物(VOCs)の代替とみなした。千葉市では4台のMAX-DOAS装置をそれぞれ異なる方位に向けた同時観測を行い、空間代表性を高める工夫を施した。この7年間、衛星観測は中国を含む東アジアの対流圏NO2カラム濃度の急激な減少を示した。このことは、アジア大陸から日本への越境汚染オゾンの影響が抑制されていた、或いは、ほとんど変化しなかったことを示唆する。このような特異な期間に、我々の千葉市でのMAX-DOAS法による多成分連続観測は、NO2とHCHO濃度の年率6~10%にも及ぶ急激な減少を示したが、オゾンの濃度の有意な減少は示さなかった。これらの濃度変動は、千葉市ではオゾンの生成がVOC濃度で律速されていること、また、NOx濃度の減少がNOによるタイトレーション効果を抑制させるというメカニズムが有意に起きていることを明瞭に示す観測的な証拠である。また、MAX-DOAS法によるPBL観測は、VOC律速領域において、HCHOとNO2の濃度比がどの月においても1以下の値を示すことも分かった。以上のように、MAX-DOAS法は、大気汚染対策に役立つ指標としてのHCHOとNO2の濃度比とともに、PBL内のO3の変動を解析するためのユニークな多成分連続観測データをもたらすことが分かった。