日本語要旨

無人航空機を用いた針葉樹林および広葉樹林で発生した流木の長さと移動性の比較

斜面崩壊や土石流に伴って流域に供給される流木は,その後の生態系や地形の変化に影響を及ぼす。そのため,発生した流木の長さや量の計測は,災害の規模だけでなくその後の流域への影響を評価する上で重要である。しかしながら,土砂と流木によって攪乱された渓流へのアクセスは困難であることが多く,流木を人力で直接測定するのは難しい。そのため,流木を測定するリモートセンシング手法の確立が期待されている。本研究では,小型無人航空機(ドローン)の空撮画像を用いた簡易的な流木計測手法の精度を調べた。平成29年九州北部豪雨によって主に針葉樹林から流木が発生した流域(針葉樹サイト)と,平成30年7月豪雨によって主に広葉樹林から流木が発生した流域(広葉樹サイト)において,ドローンで撮影した画像から長さ0.2 m以上,直径0.03 m以上の流木の長さを目視で測定し,実際に現地で測定した値と比較した。また,各流域で2回ずつドローンによる空撮を行い(針葉樹サイトでは2019年2月と9月,広葉樹サイトでは2018年11月と2019年12月),2つの時期での流木の移動量とその間の雨の強さの関係を比較した。その結果,針葉樹サイトで発生した流木の長さは,樹冠等による遮蔽の影響を受けない場合,ドローンで取得した画像によって誤差およそ0.5 m以内で計測できることが明らかになった。一方で,広葉樹サイトで発生した流木のドローン画像を用いた測定値は,樹冠部や根系部が複雑な形状をしているため,実際に現地で計測した長さに比べて小さくなる傾向があった。どちらの流域でも,2時期で流木の長さと位置は変化しておらず,流木はほとんど移動していなかった。その間に,広葉樹サイトでは大きな雨は観測されていなかったが,針葉樹サイトでは1976年から2019年までの観測史上2番目に大きく,リターンピリオドが30年を超える降雨強度を経験していた。そのため,渓流内で捕捉された流木は,その長さに変化がほとんどない場合,比較的大きな降雨を経験したとしても再移動しない可能性がある。