日本語要旨

高解像度マルチモデルアンサンブルを用いた地球温暖化による熱帯低気圧の数の変化への熱帯低気圧の種の寄与の評価

これまでの研究で地球温暖化による熱帯低気圧発生数の変化予測が示されてきた。しかし,使用されたモデルや手法によって予測結果は変動を示しており、増加するのか減少するのかさえも異なっていた。これは,モデルの設定,実験の外部強制の設定,熱帯低気圧の抽出方法に起因すると考えられる。そこで,我々は外部強制の設定が共通なCMIP6/HighResMIPに参加した6つのモデルに対して同じ手法を適用して熱帯低気圧を抽出した結果を用い,予測された熱帯低気圧の発生数の将来変化を系統的に評価した。熱帯低気圧の発生数の変化を熱帯低気圧の種の数の変化と、種が熱帯低気圧に発達するまで生存する割合(生存率)の変化に分解した。本研究では,熱帯低気圧の種は暖気核を伴う閉じた等圧線を持った低気圧と定義した。

マルチモデルアンサンブル平均で熱帯低気圧の発生数は1990年から2049年の間に統計的有意に減少し,熱帯低気圧の種の変化が発生数の減少と関係があることが示された。個々のモデルの解析結果では,多くのモデルで熱帯低気圧の発生数と種の数は共に減少を示し,いくつかのモデルでは生存率の変化も発生数の変化に寄与を示していた。本研究は熱帯低気圧の発生数の将来予測における不確実性の原因を理解するために,熱帯低気圧の種と生存率の寄与の分離が有用であることを示すものである。