下部-中部更新統境界における堆積学的・地球化学的分析:千葉複合セクションの化学層序および古環境変動
- Keywords:
- Chemostratigraphy, Chiba composite section, GSSP, Kokumoto Formation, Organic matter, Paleoenvironment, Pleistocene, Trace fossils, XRF
房総半島中部に分布する上総層群国本層の千葉複合セクションは,連続性の良い海成堆積物で構成され,下部-中部更新統境界およびMatuyama–Brunhes境界を含む.近年,千葉複合セクションは重点的に研究されるようになっているが,セクション全体(特に下部-中部更新統境界周辺)の化学層序は十分に確立されていない.そこで本研究では,中部更新統の基底を定義する国際境界模式層断面とポイントである千葉セクションを含む千葉複合セクションにおいて,高時間解像度の化学層序の確立と詳細な古環境変動の復元を目指して,堆積学的分析および地球化学的分析を実施した.
本研究では,堆積物の粒度の代替指標としてK/Ti比を測定した.分析対象区間全体を通してK/Ti比の値は変動しているが,特に酸素同位体ステージ(MIS)19aにおいては酸素同位体比変動と同調する変動パターンが見られた.また,C/N比および有機物の炭素同位体比の分析の結果からは,千葉複合セクションの堆積物中の有機物がMIS19cではほとんど海洋プランクトン由来であるのに対し,MIS18とMIS19aでは海洋プランクトン由来と陸上植物由来の有機物が混合していることが分かった.この結果は,海洋性と陸源性有機物の混合比の変動が氷期-間氷期サイクルと一致していることを示している.
また,古環境変動に関する定量的な解釈を行うために,有機炭素,生物源炭酸塩,および陸源性物質の沈積流量を計算した.その結果,MIS19cにおいては,陸源性有機炭素に対して海洋性有機炭素の寄与率が大きく増加したこと,そして生物源炭酸塩に対して陸源性物質の寄与率が大きく減少したことが示された.
さらに,MIS19aにおいて全有機炭素含有量と全窒素含有量の大きな変動が認識された.この変動は底層水酸素濃度の減少に起因するものと考えられ,千葉複合セクションの生痕化石の観察データもこの解釈と整合的である.ただし,特に約76万年前における変動については,表層での生物生産の増大に起因する可能性もあるが,現時点で定かではない.MIS19aにおける底層水酸素濃度の減少は,黒潮続流前線の北方移動に伴い海洋成層化が強化されたことが一因と推定される.