日本語要旨

バブルからコンドライトへ -II. コンドライト隕石の化学分別

コンドライトは惑星の原材料物質であるという認識は正しいのか?この問題に本論文は疑問をなげかける。

コンドライトは種類によって異なる化学組成を持ち、かつそれらは太陽系の元素存在度とも異なる。このコンドライトの化学分別という問題に対して、我々はコンドライトを構成する様々の物質の特徴と(それらを生じた舞台である)原始惑星系円盤の観測事実のいずれにも整合的な理論の構築を試みる。コンドリュール生成過程に関与する3+2成分の組成決定法(論文Iで提案)に円盤内の物質混入過程を組み合わせることで、CIコンドライト組成(太陽系の元素存在度)の始原ダストから組成の異なる様々のコンドライトがどのように進化できたのか、その根本的原因を探った。バルクとコンドリュールの化学組成が既知の7つのタイプのコンドライト(CM, CV, CO, E, LL, L and H)について計算を行った。その結果、いずれにおいても始原ダストの塊(ダストン)が高度な蒸発を経験したことが明らかとなり、コンドリュール生成過程こそコンドライトの化学分別の駆動力であったと判明した。さらにコンドライトのタイプ毎に基本的な違いが明らかとなった。それらはコンドリュール生成に関わった始原ダストの酸化還元状態の違い、コンドリュール生成とCAIsの混入するタイミングの前後関係の違い、そして(すでに明らかとなっている)D/H比の違いである。これらの違いは原始惑星系円盤が還元的状態から酸化的状態に時間的に遷移し、その時々に異なるタイプのコンドライトが生成したと考えることで整合的に説明できる。

次に我々はコンドリュール生成がどこで、いかなる熱源によって生じたのかを探った。コンドライトの様々の特徴と論文Iで明らかとなったコンドリュール生成の条件から、可能な唯一の熱源は雷放電であると結論した。理論によればスノーライン近傍で発生する巨大渦は物質集積に最適の場所である。我々は氷の凝結に伴って負に帯電した氷微粒子と正に帯電したダストンが、巨大渦中のエアロダイナミック効果により分離し、空間的に巨大なコンデンサーを形成したと予測する(図)。雷放電はダストンを直撃し、10秒以上の間ダストン表面を沸騰状態にした。大量のコンドリュールが放出した(図)。その後、ダストンは速やかに巨大渦の中心へと落下し微惑星を形成した。次いでコンドリュールは空間に漂う微粒ダストをまとってゆっくりと沈殿し、微惑星の外層を形成した。やがて微惑星同士の衝突時代に微惑星表面は選択的に破壊され、破片は自己重力により結合して瓦礫の山状のコンドライト小惑星となった。即ち微惑星の核となったダストンと瓦礫の山としてのコンドライトが物理的に分離し、化学分別が終了した。

微惑星が集まって惑星に進化したと考えれば惑星の原材料の大半はダストンであり、ダストンからコンドリュール生成過程を経て化学分別したコンドライトは、かつて微惑星の表層を形成した名残と考えられる。