インドネシアの湿潤熱帯流域を対象にした洪水氾濫に対する気候変動の影響評価
- Keywords:
- Climate change, Flooding, NHRCM, Peatland, Quantile Mapping, RRI Model, Sumatra Island, The Batanghari River Basin, Variance Scaling
気候変動による河川流域水循環の変化は、自然環境や水災害に大きな影響を及ぼす。本研究で着目するインドネシア・スマトラ島の湿潤熱帯流域では、流域下流部に泥炭地を含む湿地帯が広がる。この湿地帯は、上流域からの洪水流出によって、湿潤な環境が保たれている。ただし、スマトラ島の多くの地域がそうであるように、近年は湿地を乾燥化させて、アブラヤシ等のプランテーション農業が拡大している。洪水氾濫の発生は、農業や周辺市街地における社会経済活動に甚大な被害をもたらす。
本研究では気候変動が流域下流部の洪水氾濫に及ぼす影響を評価した。対象流域は、スマトラ島の主要河川流域であるバタンハリ川流域(42,960 km2)である。降雨流出から洪水氾濫を一体的に解析するRRIモデルを約1 kmの空間解像度で全流域に適用し、21世紀後半を想定した洪水氾濫に対する気候変動の影響評価を行った。気象研究所の領域気候モデルであるNHRCM(5 km分解能)によるMRI-AGCMのダウンスケーリング結果をRRIモデルに入力し、洪水流出や氾濫の変化を予測した。その際、降雨データのバイアス補正が必要であった。本研究の分析の結果、通常のクオンタイルマッピング法では河川流量の再現はできても、広域の浸水再現性に課題が残ることが分かった。その理由は、NHRCMの出力に含まれる降水分布の空間的な変動特性によるものであった。具体的には、空間的な降雨のばらつきが実現象よりも強く表現されるために、通常のバイアス補正を施しても、浸水を過大評価する傾向がみられた。本研究では、降雨の空間分布特性のバイアスを補正する方法を提案し、この問題の解決を図った。
補正した降雨分布をRRIモデルに入力し、将来気候下の洪水状況を推定した結果、20年の再現期間に相当する氾濫量が、現在気候に比べて約3.3倍増加するという結果となった。気候変動によって浸水の頻度や範囲が増大することは、プランテーション農業の立地計画など、温暖化適応策の必要性を示唆している。