マルチ積雲スキーム・マルチSSTによるMRI-AGCMアンサンブルで予測した陸域降水量の地域特性に関するCMIP5マルチモデルアンサンブル予測との比較
- Keywords:
- Regional precipitation, Projection uncertainty, MRI-AGCM, CMIP5, Future climate change
地域気候の将来変化に対する適応策を検討するため、高解像度な全球気候モデル(GCM)による気候変化予測情報の需要がますます高まっている。気象庁気象研究所で開発するMRI-AGCM version 3.2 (MRI-AGCM3.2)は、第5次結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP5)に参画するモデルで、水平解像度60 kmと20 kmの高解像度で気候予測実験が行われている。MRI-AGCM3.2による予測情報は、複数の積雲対流スキームと海面温度変化パターンによるアンサンブルメンバーから構成され、ダウンスケーリングデータとともに広く利活用が進んでいる。しかしながら、このような高解像度アンサンブルデータはアンサンブル数が限られるため、予期せぬ偏りや不確実性をもった将来気候予測を示す可能性があり、気候研究や影響評価にとってその有用性は限定される可能性がある。本研究では、MRI-AGCM3.2で表現した降水を包括的に理解するため、まず、世界各地における現在気候での再現精度を明らかにし、さらに、降水の将来変化だけでなく、その不確実性についてもCMIP5マルチ大気-海洋結合GCM(AOGCM)アンサンブルの結果と比較した。その結果、再現性の良いCMIP5モデルが示す降水量のバイアスはMRI-AGCM3.2で減少し、特にチベット高原から東アジアにかけてとオーストラリアで約20%減少した。世界の陸域を26地域に分割すると、MRI-AGCM3.2はCMIP5の各モデルよりも多くの地域で、降水の空間パターンと領域平均値ともに現実を良く再現した。将来予測については、MRI-AGCM3.2とCMIP5モデルアンサンブルの50パーセンタイル値を比較したところ、26地域のうち20地域で年降水量の将来変化傾向は一致した。他の6地域は南太平洋の熱帯域周辺に分布しており、大気-海洋結合・非結合のモデル設定の違いが、予測に影響したと考えられる。MRI-AGCM3.2とCMIP5モデルアンサンブルとが示す将来変化予測のばらつきは、いずれの地域においても、部分的には重なる。さらに、全26地域の平均で概算すると、MRI-AGCM3.2の予測は、CMIP5の全モデルメンバーが示す予測のばらつきの4割を網羅するのに対して、再現性の良いCMIP5モデルによるばらつきの概ね8割を網羅した。