統合陸域シミュレータの開発
- Keywords:
- Land model, Earth system modeling, General-purpose coupler, Energy and water cycle, Climate simulation
精度良い陸域過程のシミュレーションは,気候変動の予測と影響評価研究,天気・洪水・渇水予測といった様々な目的のために重要である.陸は大気・海洋に比べて本質的に複雑で不均一であり,モデルの精緻化のためには適切な格子系・解像度を用いた詳細化と,適切な物理過程導入による高精度化を実現する必要がある.そこで,陸域シミュレーションの詳細化と高精度化を目指して,統合陸域シミュレータ(ILS; Integrated Land Simulator)と呼ばれる新しい陸域シミュレータを開発した. ILSは,陸域を構成する複数の要素モデルを汎用カプラーJcupで結合し,MPMD(Multiple Program Multiple Data)方式で実行する.現在,陸面モデルMATSIRO,河川氾濫原モデルCaMa-Flood,独立したファイル入出力用コンポーネントを結合しており,今後いくつかの陸域要素モデルが追加される予定である.また,同じカプラーJcupを用いて大気・海洋大循環モデルとの結合も可能である(図1).全球オフライン実験により計算性能を確認した結果,MATSIROの負荷が一番大きい一方で,プロセス数の増加に対して高いスケーラビリティを持つことが示され,スーパーコンピュータを用いた大規模計算への可能性が示唆された.また,全球20カ所のサイトを対象に,計算結果と観測値を比較した結果,平均的な場は2変数線形回帰式による推定より再現性が低い傾向を持つものの,極値の再現性はILSの方が良いことがわかった.この結果は,今後の開発におけるベンチマークとなる予定である.