日本語要旨

タイ東北部Huai Om付近において第四系堆積物中から見つかった、現地性オーストラリア・アジア層状テクタイト破片の産状

およそ80万年前に東南アジアで起きたオーストラリア・アジアテクタイトイベントは地球上での大規模な天体衝突としては最も新しいものであるが、衝突クレーターや衝突地点周囲に厚く発達するはずのイジェクタ層が見つかっていない。一方で、この衝突で放出された衝突ガラス(オーストラリア・アジアテクタイト)は、インドシナ半島で“ラテライト層”と呼ばれる礫層の上部あるいは最上部から報告されている。しかしながら、テクタイトの産状の記載がほとんどなされていなかったため、“ラテライト層”中のテクタイトは衝突によって放出・落下してそのまま堆積した(現地性の)ものであるのか、落下後の侵食・運搬によってより若い地層中に再堆積し埋没したものであるのか明らかになっていなかった。この問題はイジェクタ層を認定するうえで重要になる。そこで本研究では、タイ東北部において”ラテライト層”中から見つかったテクタイト破片の産状の詳細な記載を行った。

“ラテライト層” 上部の狭い領域に331個のテクタイト破片が密集して発見された。破片の円磨度・淘汰度が悪いこと、密集して埋没していること、破片同士が近い化学組成を持つこと、破片をパズルのように組み合わせ元の形状の大部分を復元できることから、これらの破片は一塊のテクタイトが砕けて形成されたものであり、破砕後ほとんど移動していないことが示された。さらに、破片の累計サイズ分布は細粒と粗粒で異なるべき乗則に従い、特に粗粒側で大きなべき指数(7.5)を持つことから、激しい破砕過程を経て形成されたことが示唆される。

以上の観察・分析結果から、これらのテクタイト破片は、一塊のテクタイトが衝突地点から放出されたのち地表に落下した際に破砕し、ほぼ同時に他のイジェクタによって埋積されたか、あるいは未固結の”ラテライト層”にめり込みながら破砕したために破片が密集した状態で埋没したものである(現地性である)と考えられる。

本研究の結果は、この地域の“ラテライト層”がオーストラリア・アジアテクタイトイベントのイジェクタ層の一部であることを強く示唆するものである。