MIROC-ES2Lでシミュレートされた土地利用変化による生物物理学的および生物地球化学的影響
- Keywords:
- Carbon cycle, Earth system model, Deforestation, Hydrology, Radiation budget, Terrestrial ecosystem
森林破壊に代表される土地利用変化は、人為的な地球環境変化を引き起こす要因として、温室効果ガス排出と並ぶ重要な要因である。しかし、発生地域が偏在することや原因と現象の複雑さのため、地球システムモデルをはじめとする気候モデルの中では極めて単純化して扱われており、検証も不十分で不確実性が大きいと考えられている。
本論文では、地球システムモデルMIROC-ES2Lによる過去から将来のシミュレーションの中で、土地利用変化の影響がどのように再現されているかを解析した。MIROC-ES2Lにおいて、陸面過程スキームであるMATSIROで生物物理学的影響が扱われ、生態系スキームであるVISIT-eで生物地球化学的影響が扱われている。土地利用に関する国際モデル相互比較プロジェクト(LUMIP)で設定されたプロトコルに沿った計算結果を使用し、土地利用変化による植生の構造的な変化が、地表面のエネルギー、水、炭素収支にどの様な影響を与えたかを調べた。地球システムモデルの結果を用いたことで、地表の局所的な変化だけでなく、大気循環を介した広域的な影響も考慮することができた。
過去実験では、森林破壊の進行により地表反射率等が変化し、陸域全体の純放射と蒸発散量が徐々に減少する状況が再現されていた。同時に森林の炭素ストックが減少した地域では、炭素の平均滞留時間が短縮される(炭素循環が加速される)傾向にあった。将来実験は主にSSP126とSSP370シナリオ(注)に基づく結果を解析し、将来の食糧需要などによる耕作地拡大などの土地利用変化が、土壌水分から河川への流出量や植生バイオマスに相当の影響を与えることが示された。感度実験を行ったところ土地利用シナリオ自体への依存性は強くなかったが、いずれも影響は空間的に不均質に生じており、将来の土地管理が気候変動への対策として重要であることが示唆された。
(注)SSP(Shared Socioeconomic Pathway)は統合評価モデル計算に基づく代表的な将来像を示す社会経済的シナリオであり、大気中の温室効果ガス濃度経路に対応させた複数のシナリオが温暖化研究で用いられる。SSP126は持続可能社会に向けて温暖化対策を積極的に進めるシナリオ、SSP370は温暖化対策が進まず大気汚染や森林減少が続くシナリオである。