バブルからコンドライトへ -I. 蒸発・凝縮実験およびコンドリュールの生成
- Keywords:
- Evaporation, Condensation, Experiment, Chondrule, Chemical fractionation, Boiling, Jet-droplet, Chondrule fromation, Protoplanetary disk, Solar system
新実験の結果を用いて、コンドリュール生成のシンプルなモデルを提唱する。コンドリュールは、加熱・溶融により球状化した直径1~3 mmのケイ酸塩質の岩石玉で、コンドライト隕石の体積の大部分を占める。コンドライトは小惑星帯から飛来したとされ、地球を含めた太陽系の固体天体の生立ちを知る重要な手がかりとなる。コンドリュールの存在は、四十数億年前の原始太陽系円盤で大規模な高温現象の生じた証拠と考えられる一方、それらが非常に多様な化学組成を有する事実は宇宙化学の一つの謎であった。
我々は高出力炭酸ガスレーザーを用いて、太陽系元素存在度(CI)を模したケイ酸塩組成試料の蒸発実験を行った。融解試料の到達温度は3000±300 K、その蒸発程度は0~100 %の範囲に制御した。試料温度が沸点を超えると、複数の液滴が融解表面から次々と連続的に飛び出した(図)。これらは融解表面で生ずる蒸気バブルが破裂することで生成される、ジェット粒子(融解試料の液滴)と考えられる。生じた蒸発ガスとジェット粒子の化学組成を測定し系統的に解析することで、相対的揮発度という新たな無次元量を化学組成の関数として元素ごとに決定した。これを使うことで、任意の組成を持つケイ酸塩物質について、蒸発と凝縮による化学組成の進化を数学的に表現することが可能となる。水面の気泡破裂によるジェット粒子の先行研究を参考にすると、粒子/バブルの直径比は約1/10となる。このことから、コンドリュールの最大サイズの10倍を上回る巨大なダスト塊「ダストン」が原始太陽系円盤に存在したと予言する。
ダストンが高温加熱されると、その周りに断熱膨張する蒸気雲が形成され、ダストン表面の沸騰で生じるジェット粒子は蒸気雲中を飛行する。ジェット粒子は衝突する蒸気と均質核凝縮した超微粒子を取り込みつつ、過冷却状態を経てコンドリュールへと進化する。このモデルに元素の相対的揮発度を用いた化学進化の計算を組み合わせて、既に分析されている約600個のコンドリュールの化学組成を再現する条件を求めた。その結果、コンドリュールの化学組成は、ジェット粒子射出時のダストン表面の蒸発程度、蒸気の凝縮と微粒子の取り込みの程度、そしてダストンの酸化還元度により決まることが明らかになった。さらに今回の実験と過去の過冷却固化実験の総合的解析から、化学組成のみならずコンドリュールの他の特徴(最大サイズとサイズ頻度分布;組織の多様性)も説明できることが判った。