日本語要旨

現在のサンゴ礁および沖合域のマクロイド床・サンゴモ球床にみられる穿孔性二枚貝による生痕

マクロイドおよびサンゴモ球(ロドリス)は,被覆性有孔虫やサンゴモを被覆生物とする炭酸塩ノジュールである.両者は,他の分類群に対して比較的安定した生息場所を提供することにより,両者の分布域における生物多様性を高めている.マクロイド床・サンゴモ球床は,世界各地の様々な地域・水深の堆積環境に分布している.本研究では,太平洋(中琉球北部,フランス領ポリネシア),オーストラリア東部(フレーザー島,ワンツリーリーフ,リザード島),地中海(スペイン南部)の6地点(水深0~117 m)でみられるマクロイド床・サンゴモ球床のノジュールが小型の穿孔性二枚貝(生痕属Gastrochanolites)によって穿孔されていることを認め,その形状および産状を検討した.同ベッド中にみられる穿孔性二枚貝の殻(Gastrochanolitesに近縁のタクサやイガイ類)の形状は,浅海域の岩盤の底質に生息するそれらの殻と比較して,平均的にほっそりしており,サイズも小さかった.太平洋地域では,Gastrochaena cuneiformisGastrochaena sp.,Leiosolenus malaccanusL. mucronatusLeiosolenus spp.,Lithophaga/Leiosolenus sp.が水深 20 m 以深で初めて確認され,それらは幼体で,まれに小型の成体が認められた.マクロイドやサンゴモ球中にみられる穿孔性二枚貝の大きさは,沖合域のものの方が浅海域に比べ相対的に大きかった.この原因として,浅海域では穿孔される側のマクロイドやサンゴモ球が回転しやすく,底質としての安定性を欠くためと考えられる.穿孔性二枚貝の大部分は,穿孔される側のマクロイドやサンゴモ球を構成する被覆性底生有孔虫やサンゴモよりも成長速度が速いため幼体に止まっているものが多く,成体に達しているものは稀である.その結果,小型の成体と幼体と共存するという産状が認められる.波浪限界以深のマクロイドおよびサンゴモ球には,主に海綿や多毛虫による生物侵食が最も多くみられた.このような現生試料の観察結果は,化石試料を検討する際の基礎資料として重要である.