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セイルドローンによって観測された日本南岸沖黒潮の冬季メソスケール暖水斑への大気境界層の応答

近年,自律型航行ロボットの技術発展は目覚ましく,大気や海洋の観測などの科学調査に使用され始めている.今回利用したセイルドローンと呼ばれる自律型航行ロボットは,風力を推進力とし,太陽光発電でデータ取得を行い,衛星通信を利用してリアルタイムで地上にデータを送る.そのため,厳しい気象海象条件となる冬季の外洋でも高い空間解像度の観測が可能である.そこで,2018/19年の冬,このセイルドローンを用いて,日本南岸を流れる黒潮を横切り,中規模(メソスケール)またはさらに小規模の大気と海洋の構造を観測した.

日本南岸沖の黒潮強流域には,暖水コアと呼ばれる暖かい表層水が流れている.暖水コアの水温は,黒潮に沿って一様ではなく,10〜500kmの間隔で顕著に高水温の暖水斑を形成する.この様なメソスケール暖水斑が,活発な大気海洋相互作用の場となっていることが予想される.2018年12月28日から12月29日,セイルドローンは,水温が約23˚Cに達するメソスケール暖水斑の中心部(31.5˚N, 135.8˚E)のすぐ北を通過した.メソスケール暖水斑の上では,冬季モンスーンに伴う北風の強化(約2m/s)と,さらに小規模(サブメソスケール)の海面気圧の変化(約1hPa)が観測された.この海面気圧の変化は,黒潮に直交する方向に互いに逆回転する二つの非地衡風的な循環の存在を示すものかもしれない.このセイルドローンが暖水斑を通過した時,風速は最大に達し,12m/sを超え,1141W/m2の割合で大気が海洋から熱を奪っていた.その後(2019年1月3日から1月5日),セイルドローンはメソスケール暖水斑の南端を通過し,大気の低気圧擾乱の接近による風の弱化とそれに伴う海洋の熱放出の減少を観測した.

セイルドローンで観測されたメソスケール暖水斑の中心近くの大気と海洋のサブメソスケールの構造は,これまで高解像度の現場観測が行われたことのない黒潮のメソスケール暖水斑に大気境界層が圧力調整応答をしていることを示唆している.