大気CO2濃度倍増下における1000年規模の気候–炭素循環シミュレーション
- Keywords:
- global warming, earth system models, millennium time-scales, carbon cycle feedbacks, transient climate response to cumulative carbon emission, anthropogenic emission
地球システムモデル(Earth System Models, ESM)は、気候–炭素循環過程の理解や温暖化予測に活用されている。通常、このようなモデルは最大で数百年程度のシミュレーションに利用されるが、その計算コストの高さから、1000年を超える時間スケールのシミュレーションに使われることは少ない。しかし1000年スケールの実験は、モデルにおける気候-炭素循環過程の基本的な特性(例えば気候感度)を把握し、将来の大気二酸化炭素(CO2)濃度および気候の安定化を理解し予測するために有用である。そこで本研究では、2種類のESM(MIROC-ESMおよびMIROC-ES2L)を用いて、気候–炭素循環過程が外部強制に対して1000年スケールでどのように応答するのかを調べた。実験では、開始年に大気CO2濃度を瞬時に倍増し、その後1000年もしくは2000年間、その濃度レベルを維持させた。またこれらの結果と、大気CO2濃度を毎年1%の割合で140年間増加させ続ける実験(1pctCO2)を比較した。加えて、炭素循環フィードバックを分離・評価するための感度実験も実施した。その結果、1pctCO2実験において見られる全球平均気温–累積人為CO2排出量の間の線形関係が、千年単位の時間スケールでは非線形となっており、さらに2つのモデル間ではこの非線形性の度合いが異なっていることが見つかった。他の既存モデル(簡易気候モデル)にもこのような非線形性とモデル間での大きなばらつきが確認され、1000年スケールにおける気候–炭素循環過程に大きな不確実性が残されていることが示唆された。また、1000年スケールでは海洋による炭素および熱吸収の振る舞いが大きく異なっており、熱よりも炭素の取り込みの方がより長く持続することが明らかになった。本研究で用いた実験設定は非常に理想化されたものであるが、このような海洋による持続的な炭素取り込みは、今後の大気CO2濃度や気候の安定化を考えていく上で考慮する必要がある。今後の研究ではさらに、様々な複雑度を有した複数のモデルによって、同様の1000年スケールの長期実験を行うことが理解を深める上で有用であると考えられた。