環北極域での土壌有機炭素,地下氷と高含氷永久凍土融解の脆弱性分布計算と地図化
- Keywords:
- Circum-Arctic, Soil organic carbon, Distribution of carbon and ice in permafrost, Permafrost degradation, Conceptual modelling, Topographical and hydrological downscaling
永久凍土とは2年以上連続して氷点下以下の地面や地盤をいい,環北極域陸地の多くを占めている.そこには全球陸域にある土壌有機炭素の約半分が凍結貯蔵されていると考えられており,温暖化に伴って凍土の融解が拡大すると,これまで地下の氷の中に閉じ込められていた過去の二酸化炭素やメタンといった温室効果ガス (GHG) の大気放出や,融解した土壌中の炭素の分解による新たなCHGの生成により,温暖化がさらに促進する可能性がある.特に,地下氷と有機炭素をともに多く含む高含氷永久凍土はその融解の影響が大きいと考えられ,その分布状況や地下貯蔵量の把握は重要である.しかし,現地環境の厳しさや移動の難しさのため,観測のみからの把握には限界がある.
そこで本論文では,異なるアプローチを用いて,北緯50度以北の土壌有機炭素,地下氷の分布を求めた.まず,長期の土壌炭素と地下氷の収支を計算するモデルを開発して,現在の有機炭素や永久凍土が発達・生成した最終氷期やその後(後氷期,完新世)より以前の最終間氷期(約12万5千年前)から現在までの推移を計算した.その結果から環北極域の現貯蔵量を緯度・経度1°の解像度で推定した.続いて,高解像度(約2km)のデジタル標高データから地形的・水文的特徴を抽出して,土壌炭素と地下氷の分布を0.2°ごとに求めた.両者の結果は観測に基づく分布図とそれぞれよく対応するものであった.さらに,その両者の分布を基に,温暖化の下でGHGの追加放出につながる永久凍土融解の脆弱性分布を求めた(図).
これらの結果は新しい方法論の有効性と有用性を示している.今後も改良は必要であるが,このアプローチによって得られるデータや分布図は,過去や現在の気候変化の理解のためのユニークな資料となり,また温暖化緩和・適応策の基礎資料として,また地球システムモデルを使った気候シミュレーションの境界条件として活用されよう.