谷底平野における津波堆積物の空間分布と供給源‐2011年東北地方太平洋沖地震による津波堆積物から得られた知見‐
- Keywords:
- 2011 Tohoku-oki tsunami, Narrow valley setting, Tsunami deposit, Spatial distribution, Sedimentary processes, Sediment budget
近年,谷底平野から多くの古津波堆積物が発見されているにも関わらず,谷底平野における津波堆積物の空間分布や堆積プロセスはよく理解されていない.本研究では,東北地方太平洋沿岸の仙台平野の南端に位置する谷底平野を対象として,10~100 m間隔の計174地点で2011年東北地方太平洋沖地震による津波堆積物の層相や層厚,堆積構造などを観察し,浸水域全体における津波堆積物の空間分布を明らかにした.津波堆積物の粒度分析・珪藻分析や津波の浸水高・遡上高の現地調査,ビデオ映像の解析,津波前後の空中写真・DEMの解析などを行ない,津波堆積物の堆積学的特徴と津波の水理学的特性,地形的特徴との関係について議論した.津波砂層の層厚・粒度は,微地形の影響で局所的に変動しながら,大局的には内陸薄層化・内陸細粒化する.津波砂層の内陸方向への薄層化・細粒化は,押し波の流速・浸水深,及び堆積物濃度の減少によると考えられる.津波砂層のサブユニット数は,標高3 m以上の主谷と支谷では1枚であったが,標高3 m以下の主谷と沼では2〜6枚であり,地形的特徴による違いが見られた.津波泥層の層厚変化は,水田や沼といった局所的な堆積物供給源に制約されていた.津波堆積物の層厚の空間分布や津波前後のDEM・空中写真などに基づき,津波による谷底平野内の侵食量・堆積量を推定し,土砂収支について検討した.陸上に堆積した津波砂と津波泥の堆積量は,それぞれ砂と泥の侵食量の57%と52%と推定され,残りは引き波によって海域に流出したと考えられる.本研究が明らかにした谷底平野における津波堆積物の空間分布や堆積プロセス,土砂収支は,他地域の谷底平野の古津波堆積物の認定や解釈に役立つだろう.