結合ライブラリJcup3: その思想と応用
- Keywords:
- Earth system modeling, Coupler, Coupled simulation
現代の気候・気象シミュレーションでは大気や海洋などの複数のモデルコンポーネントが必要な情報を相互に交換しつつ計算を実行するような形態をとることが一般的である。これらのモデルコンポーネントはそれぞれが表現する物理現象の特性に応じた時空間スケールを持つため、モデルの結合においては適切な時間間隔で適切な格子変換を行いデータ交換するソフトウェアが求められる。結合ライブラリJcupは気候・気象シミュレーションを主対象とした汎用結合ソフトウェアである。高い汎用性を確保し利用の利便性・安全性を担保するため、プログラム内部の処理を「値を変化させない処理」と「値を変化させる処理」に2分し、値を変化させる処理を利用者に対して可視化したことがJcupの先進性である。具体的にはJcupは以下の2つの特徴をもつ。
1)格子形状ではなく各モデルプロセスが担当する格子点の番号および補間計算時の格子点の対応関係を入力情報として与える。
2)補間計算コードを利用者が自由に実装できる。
図に示したJcupのデータフローでは四角で囲んだ補間計算部分が値を変化させる処理に該当し、この部分の計算コードを利用者が実装できるように設計されている。
適用事例として気候モデルMIROCの大気海洋結合、大気モデルNICAM-海洋モデルCOCO結合、NICAM-IOコンポーネント結合、地震モデル-構造物モデル結合の4ケースを紹介した。MIROC大気海洋結合は補間計算コードを自由に実装できるというJcupの特徴によって結果に影響を及ぼすことなく既存の結合プログラムを置換した事例である。NICAM-COCO結合は格子系に依存しないというJcupの特徴によって従来にない複雑な格子系のモデルも結合できた事例、NICAM-IOコンポーネント結合は補間計算コード実装によって複数の補間方法を容易に組み込む事ができた事例である。地震-構造物モデル結合は気候・気象分野のモデルだけでなく構造物モデルのような非構造格子に対しても結合条件に応じて柔軟に対応可能であることを示した事例である。