日本語要旨

ブルカノ式噴火における降灰堆積過程:粒径分布変化の高時間分解能解析と高速度カメラ観察による解明

ブルカノ式噴火は小さな噴出量(< 0.1 km3)と短い継続時間(数秒~数時間)で特徴づけられる爆発的噴火であり,世界中の活動的火山で普遍的に見られる噴火現象である.しかしながら,この「小さく短い噴火」に伴う火山噴出物の堆積過程は,これまでほとんど明らかになっていなかった.これは,一回のブルカノ式噴火で形成される堆積物の層厚が薄いため,一般的な地質学的手法では十分な時間解像度で噴出物の変化を追えないことに起因する.

本論文は,桜島火山のブルカノ式噴火による降灰の堆積過程を,高時間分解能で採取された降灰試料に対する粒径分布解析と,落下中の降灰粒子に対する高速度カメラ観察を組み合わせることで調べたものである.研究対象は2016年3月26日10:44と11:26に発生したブルカノ式噴火による降灰とし,昭和火口から3.5km離れた地点において試料採取と高速度カメラ観察を行った.高時間分解能に得られた降灰試料の粒径分布は二峰性を示した.二つに分離された亜集団のうち,主亜集団の粒径中央値は降灰推移とともに減少した.これは高度一定のソースから粒径に応じた終端速度で火山灰が落下したことを示す.一方,副亜集団は,凝集粒子起源と解釈され,その割合は降灰推移とともに増加した.また,高速度カメラ観察からは,降灰とともに落下中の降灰粒子の平均密度が減少することが明らかとなり,これも凝集粒子が増えたことを示す.これらから,桜島火山のブルカノ式噴火における降灰の堆積過程は,一定高度に位置する遷移的火山噴煙からの火山灰粒子の落下と,凝集粒子の割合の増加で特徴づけられることが分かった.さらに,降灰率と粒径分布の時間変化との比較から,これまでプリニー式噴火で観察されてきた,凝集粒子による堆積物のSecondary thickeningが,ブルカノ式噴火でも起きることが示唆された.本研究の知見は,小規模噴火を繰り返す世界中の活動的火山に適用可能である.