台風を構成する対流雲の雲粒の電荷分布にエアロゾルが与える影響
- Keywords:
- Lightning, Tropical cyclone, Aerosol
本論文では台風を構成する積乱雲の、水物質(以下雲粒と表記)が持つ電荷の分布にエアロゾルが与える影響を、雲粒が持つ電荷と雷を直接計算する数値気象モデルによって評価した。
積乱雲内部であられを主成分とする雲粒が衝突すると、電荷分離が起きて雲粒は電荷を獲得し、積乱雲内で電気的な偏りが生じる。この電気的な偏りを中和する現象が雷である。雲粒の衝突過程は雲の微物理特性に大きく依存するため、雲の微物理特性と雲粒の電荷分布は密接に関係している。加えてエアロゾルが雲の微物理特性に影響を及ぼすことが知られており、エアロゾルが雲粒の電荷分布と雷の頻度に影響を与えることが先行研究により指摘されていた。
しかしながら、先行研究の多くは、雲粒の電荷を直接考慮しない数値モデルによる数値実験から、診断的にエアロゾルが雲粒電荷や雷に与える影響を評価したものであり、雲粒の電荷を直接考慮した数値モデルによる評価が必要であった。
本論文ではこのような背景を元に、数値気象モデルSCALE (Scalable Computing for Advanced Library and Environment)を雷が直接計算できるように拡張した。そして、SCALEを用いて、理想化された台風全体を対象とした数値実験を行い、エアロゾルが台風を構成する積乱雲の雲粒電荷分布に与える影響を評価した。
数値実験の結果から、エアロゾル数濃度が低い〜中程度の時には台風内部の雲粒電荷は下層から正→負→正という3極の分布となっていた。一方、エアロゾル数濃度が高い時には負→正の2極分布となった。また、2極分布の時の方が雷の頻度が多くなり、エアロゾルが雲粒の電荷のみならず雷にも大きな影響を与えていることが示唆された。