スラック係留方式のブイを用いたGNSS-Acoustic 観測の測位精度評価
- Keywords:
- Seafloor geodesy, GNSS-Acoustic, Moored buoy, Dilution of Precision, Nankai Trough
スラック係留方式のブイを用いた GNSS-Acoustic(GNSS-A)測位システムは、任意の頻度、あるいはオンデマンドでのリアルタイム海底地殻変動観測が可能である。日本周辺などの強海流域で係留ブイシステムを運用する場合、ブイの水没を防ぐために水深より十分長い係留索を用いたスラック方式の係留が必要となる。そのため、係留ブイは従来の船舶観測のように GNSS-A 測位の条件が最も良い海底局アレイ(海底に水深と同程度の間隔で設置する3台以上の音響トランスポンダ)の重心直上に定点保持することが難しく、条件の悪い海底局アレイの外側での観測が多くなる。よって、その際の測位精度の低下を定量評価することが重要となる。
我々は、南海トラフ近傍の紀伊半島沖熊野灘(流速最大 5.5 ノット、水深 3000 m)において、係留ブイ GNSS-A 測位システムによる海底地殻変動観測を1年間実施し、海底局アレイ重心直上を中心に半径 ~4 km 内のさまざまな観測位置で実施した音響測距527ショット分のデータを得た。1ショットごとに推定した海底局アレイの水平位置(測位解)の測位精度(2σ)は、海底局アレイ内側上では 46 cm、外側上では 97 cm となった。このことから、観測位置と海底局アレイ重心直上間の水平距離が大きくなると測位精度が著しく低下するといえる。次に、測位精度の指向性に着目すると、観測位置から海底局アレイ重心への視線方向に測位解のばらつきが大きくなることがわかった。このような観測位置に依存した測位精度の低下およびその指向性は、従来の船舶観測データで同様な測位解析をした場合にも共通してみられたことから、観測位置と海底局アレイの位置関係により普遍的に生じるものと考えられる。
測位精度の低下とその指向性を観測位置の関数として定量化するため、まず受信局と発信局の位置関係で定義される精度低下の指標 DOP(Dilution of Precision)を GNSS-A 測位の観測方程式から導出し、観測位置ごとに誤差楕円を計算した。この誤差楕円は観測位置が海底局アレイ重心から離れるに従い大きくなり、その長軸方向は観測位置から海底局アレイ重心への視線方向とほぼ一致した。次に、誤差楕円を測位精度にスケーリングするため、音響測距527ショットすべてを用いて1つの測位解を推定したときの走時残差の標準偏差σを求めた(σ = 0.098 ms)。このσ値を誤差楕円に乗じて得られる測位精度は、実データを用いて推定した測位解から求めた測位精度をよく再現した。
本論文で求めたσ値、観測位置および海底局アレイ形状の情報があれば、任意の観測位置でGNSS-A測位したときの測位精度を水平2方向独立に算出することが可能になる。これは、地震発生直後などのごく短時間の測位で得られる海底地殻変動量を詳細に評価するために、極めて有用な指標となる。