水素によって促進された鉱物の電気伝導度について
- Keywords:
- Electrical conductivity, Hydrogen, Water in the mantle, Point defects
鉱物の電気伝導度は、鉱物に溶け込んだ水素によって促進されることは今から40年ほど前に提案され、その後、多くの実験がなされてきたが、実験結果には多くの混乱がみられた。本論文では、混乱の原因を水素の挙動に着目して(特にカンラン石について)分析する。水素は鉱物中で早く拡散するため、鉱物中に溶けた水素は容易に逃げる。また、水素はいたるところに存在し、水素(水)を加えなかった実験でも、水素が鉱物中に融けこむこともある。後者はあまり注目されていなかったが、結果に大きな影響を与える。そこで、水素が鉱物の電気伝導度などの性質にどう影響するかの実験では多くの注意が必要である。発表された論文の中でこのような点に注意が払われたものを選べば、今まで出版された論文の間に大きな矛盾はない。唯一存在する「矛盾」は高温でのデータと低温でのデータの違いである。これは、高温と低温で電気伝導のメカニズムの違いとして説明される。高温での実験で水素の逃散を防ぐには高周波、低電圧での測定を行えばよい。このようにして行われたカンラン石についての高温での実験結果を使うと、地球物理学的に推定されたアセノスフェアの電気伝導度はその異方性もふくめ、水素を含んだカンラン石によるものとして説明できる。遷移層の電気伝導度も同様に、水素を含んだ鉱物によるものとして説明できる。
今後の研究のテーマとして最も重要なのは下部マントル鉱物の電気伝導度への水素の効果である。今までの下部マントル鉱物の電気伝導度の研究はすべて直流での測定であり、鉱物中の水素の量も測定されていなかった。直流での測定では水素の効果を検知することはできない。最近、ブリッジマナイトなどの鉱物にかなりの水素が溶けることが示された。これらの鉱物の電気伝導度に水素がどのような影響を与えるかと研究すれば、地球物理学的測定と比較することから、下部マントルの水素の量が推定できるだろう。