日本語要旨

中部ベトナムにおける衛星降水量データの評価

中部ベトナムで対照的な地形を示す中部高原域と中部海岸域において,衛星観測に基づいて作成された3種類の降水量データセットの精度を,稠密な地上雨量計データから作成されたグリッド降水量データセット(VnGP)及び地点降水量データを用いて,異なる空間(グリッドおよび領域全体)および時間(日・月)スケールで比較することにより検討した。対象とした衛星観測降水量データは,(1) Climate Prediction Center Morphing algorithm (CMORPH),(2) Global Satellite Mapping of Precipitation (GSMaP) Reanalysis,(3) Tropical Rainfall Measuring Mission multi-satellite precipitation analysis (TRMM) 3B42 で,2001年から2010年にかけての10年間の雨季について比較を行った。また,北東モンスーン,熱帯収束帯,熱帯低気圧による広域豪雨を定義し,広域豪雨時における降雨の再現性も検討した。その結果,対象とした全ての時空間スケールにおいて,TRMMが他のデータに比べて精度が高いことが判明した。CMORPHとGSMaPは,VnGPと比べた場合,中部海岸域においては,中程度の相関を示し,空間分布の特徴も比較的良く捉えられていたものの,中部高原域では,大きく過小評価していた。広域豪雨時の再現性は,3種類の衛星データで共に,熱帯低気圧や熱帯収束帯による場合のほうが,北東モンスーンによる場合に比べて良好であった。TRMMの降水は,日降水量が25~80 mmの時に最も良く再現されていた。GSMaPとCMORPHの推定誤差には,標高や対流圏下層の東西風速成分への依存性がみられ,降水量の推定方法に改良の余地がある。