日本語要旨

大気のない天体からの熱放射におけるダスト層の影響

我々は, 岩石やレゴリスからの熱放射における薄く熱的に不透明なダスト層の影響を調査し, ダストに覆われた表面での日射量の日サイクルに対する熱応答を明らかにした.はやぶさ2による小惑星(162173)リュウグウの探査で母船や着陸機に搭載された機器により熱赤外観測が実測されており,本研究では同小惑星表層の熱収支にダストがどれだけ影響するか数値計算を実施した.その結果, 熱慣性25Jm-2-1-1/2の非常に薄い(10〜100μm)細粒の多孔質なダスト層でさえも表面温度に顕著な影響を及ぼし, 均質な半空間に対して計算した場合, 見かけの熱慣性を約20%以上変化させ得ることを示した. リュウグウ表層では1日に熱が浸み込む深さが約10 mmで, それ以下にある物質が熱的にマスクされるが, 浸み込み深さの0.1~1倍(1~10 mm)の厚みのダストに覆われているときは, 熱の位相遅れがダスト層だけの場合と比べて小さくなることを見いだした. もしリュウグウ上でダストに覆われている領域が存在すれば, 母船搭載の中間赤外カメラ(TIR)や着陸機MASCOT搭載の着陸地点付近の岩塊を観測した熱放射計(MARA)の観測データで明確に見られたはずである. しかし, それらの観測で見えていないため,ダストはリュウグウからの熱放射に影響していないと推定される.