日本語要旨

石墨の微細組織に対する剪断の劇的な効果:地球科学への注意と応用

研磨面に露出した石墨の微細組織を、共焦点レーザー走査顕微鏡、レーザーラマン分光法、集束イオンビーム透過電子顕微鏡(FIB-TEM)を用いて調べ、研磨過程による石墨の表面状態と結晶性への影響を検証した。石墨の研磨面は、凹凸のない平らな部分(flat part)と幅< 1 µm、深さ< 100 nmの溝領域(grooved band)に分けられた。ラマン分光分析によって、ホスト鉱物によって覆われた元の石墨は規則正しい構造であることが明らかになったが、表面を研磨された石墨は、特にflat partにおいて結晶化度が低下していることが明らかになった。FIBで切り出した薄膜試料の走査TEM観察に基づいて、試料調製中に発生した割れ目は表面からおよそ1 µmの深さまでの領域に集中していた。さらに、研磨によって石墨のシートが剥がれ、さらに剥がれた石墨シートが隙間を充填している様子が観察された。本研究の結果は、石墨の元の微細組織が研磨中の剪断によって容易に変形することを実証しており、試料調製に注意を払うべきであることが示された。また、石墨や板状鉱物の断層運動などによる天然の剪断の影響にも注意を払う必要があるとともに、今後それらの鉱物に記録された剪断の情報を読み取ることで地球科学に応用できる可能性が示唆される。