シミュレーションモデルを用いた1976–77レジームシフトがカリフォルニア海流域のマイワシとカタクチイワシに与えた影響の解析
- Keywords:
- California Current System, anchovy, sardine, individual-based model, climate-to-fishery model, regime shift
1976年から1977年にかけて起きた気候・生態系の変化は、著名なレジームシフトの一つとして知られる。カリフォルニア海流域(CCS)でも1977年以降プランクトンが減少し、これを餌とするカタクチイワシが減少したことが報告されている。しかし当時、同じCCSでプランクトンを捕食するマイワシの資源量は減少しなかった。本研究では、海洋生態系モデルのシミュレーション結果を解析し、1976–77年にマイワシ・カタクチイワシに何が起きたのかを調べた。用いた海洋生態系モデルは、領域海洋循環モデル・低次生態系モデル・カタクチイワシ・マイワシの個体ベースモデルの結合モデルであり、7kmの空間解像度を持つ。モデルを解析した結果、両種の産卵場位置と産卵期が異なることが、レジームシフト前後の資源量変動の差につながったことが判明した。CCSにおけるレジームシフトは、冬から春にかけての沿岸部で顕著であった。1977年以降の冬春季、沿岸部での風が弱まったために沿岸湧昇が弱化し、動物プランクトンが減少した。カタクチイワシは冬春季に岸から10〜20kmの海域で産卵するため、多くの仔魚が餌不足によって生き残れず、資源量が減少した。一方でマイワシの産卵場はより広く、沿岸部から沿岸湧昇の影響の少ない沖合数十kmに及ぶ。また、産卵期は春から夏にかけてである。したがって、カタクチイワシの年級群の大半がレジームシフトの影響を受けたのに対し、マイワシの年級群はごく一部しかレジームシフトの影響を受けず、資源量にも目立った変化はなかった。カタクチイワシとマイワシの時空間分布の差は、これまでの観測やシミュレーションで解像可能なスケールからすれば非常に小さい。本研究では、高解像度モデルを使うことで初めて、時空間的分布の差異がカタクチイワシ・マイワシ資源量変動に対しどのような影響を及ぼすかを明確に示すことができた。