日本語要旨

XRFコアスキャナーで測定した臭素(Br)カウントから復元した、第四紀日本海半遠洋性堆積物中の海洋起源有機炭素含有量の高解像度記録

堆積物中の海洋起源有機炭素(MOC)量は、海洋における過去の生産性を復元する上で有用な指標である。臭素(Br)は陸起源有機物に比べて海洋起源有機物中により濃集しているため、臭素が堆積物中のMOC量の有用なプロキシとなりうることが提案されている。

本論文では、IODP第346次航海で採取された堆積物を用いて、第四紀の日本海半遠洋性堆積物中のMOC量を2mm(約50年)間隔という高解像度で復元した。まず、XRFコアスキャナー(ITRAX)を用いて堆積物中の臭素濃度を2mm間隔で約5万点測定した。さらに、MOC量を独立に求めるため、XRFコアスキャナーの測定に使用した堆積物と同層準の23試料を用いて、全有機炭素(TOC)、全窒素(TN)、有機物の安定炭素同位体比(δ13C)の測定を行なった。TOC/TN比と有機物の安定炭素同位体比(δ13C)は、どちらも、日本海堆積物では陸起源の有機炭素と海洋起源の有機炭素が様々な割合で混在していることを示していた。本研究では、有機物の安定炭素同位体比(δ13C)の値を用いて、全有機炭素(TOC)中のMOCの割合を計算し臭素カウントと比較した。

XRFコアスキャナーで測定した臭素カウントとMOC量を比較すると、両者は良い相関を示した。この関係を用いて、臭素カウントからMOC量を算出する計算式を導いた。この計算式を使用して、IODP U1424地点で得られた日本海半遠洋性堆積物コア中のMOC量を復元した。その結果、MOC量は第四紀半遠洋性日本海堆積物に特徴的な明暗の互層に対応して変動しており、暗色層で高く、明色層で低い値を示していた。しかし、氷期極相期に海水準が低下して日本海がほぼ孤立した時にのみに例外が見られ、MOC量が少ない暗色層が堆積していた。

本研究で提案した、XRFコアスキャナーで測定した臭素カウントを用いてMOC量を推定する手法は、迅速かつ高時間解像度で堆積物中の有機炭素量を復元する手法として大変有用であり、今後の応用が期待される。