日本語要旨

はやぶさ2到着以前の小惑星リュウグウ

小惑星162173「リュウグウ」は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)主導の小惑星サンプルリターンミッション「はやぶさ2」の探査対象天体である。はやぶさ2による探査以前の地上観測からは、リュウグウについては直径1km以下の地球近傍C型小惑星であるということのほかは、極めて限られた情報しか得られていなかった。本論文は,はやぶさ2探査以前における地上観測や理論モデルに基づいて、リュウグウの最も確からしい物理的・力学的性質について,とくに試料採取にあたって重要となるリュウグウ表層の特徴を中心にまとめたものである。この情報は、はやぶさ2到着以前のリュウグウについての基準モデルをなすものであり、本論文では、自転軸やスペクトル情報などの全球的性質、熱慣性などの表層熱物理的性質、空隙率や強度などの表層力学的性質、にわけてそれぞれ観測値・導出値・予測値を記述している。この基準モデルは探査運用計画の策定に役立つほか、はやぶさ2で得られるデータをより適切に解釈しリュウグウをはじめとした小天体についての科学的研究を促進し、小天体から探る太陽系進化の理解に貢献するものである。 なお、はやぶさ2の探査によって本論文の価値が失われるものではない。本論文は、C型小惑星一般について現状の理解を整理したものとも言える。結果的に、はやぶさ2の成果をより鮮明にすることのほか、将来の小天体探査を計画するにあたっておおいに参考となるであろう。