南海トラフのプレート境界断層以深に広がる低強度域
- Keywords:
- plate boundary décollement, Nankai Trough, excess fluid pressure, equivalent strength, drilling parameters, International Ocean Discovery Program (IODP), Temperature-Limit of the Deep Biosphere off Muroto (T-Limit), Site C0023, DV Chikyu
プレート沈み込み帯の境界断層前縁部や付加体先端部の原位置強度は、地震の破壊伝播、付加体形成やプレート境界断層そのものの成長にとって極めて重要なパラメータである。近年、地震波探査や科学掘削によって、付加体先端部における高間隙水圧の存在と、これによる付加体堆積物の有効強度の低下が示唆されてきた。しかし一般に、原位置強度の直接的な測定は難しく、この付加体先端部の強度低下の実態は未解明であった。
本研究では、深海統合掘削計画第370次航海 (IODP Exp.370 T-Limit) において取得された掘削パラメータを用い、原位置強度を反映する「掘削等価強度 (EST) 」を算出することにより、プレート境界断層を跨ぐ付加体先端部の強度プロファイルを作成することを目指した。Exp.370では、室戸岬沖の南海トラフ・付加体先端部を海底下1180 mにわたり掘削した。この掘削孔では、プレート境界の断層帯が海底下およそ760〜795 mにおいて確認されており、上盤堆積物・断層帯・下盤沈み込み堆積物・基盤玄武岩までの一連の掘削コアが取得されている。掘削パラメータから計算されたESTは海底下深度に伴って上昇する傾向がみられた。しかし、プレート境界断層下部の下盤沈み込み堆積物内部 (海底下およそ800m) において、10MPaから2MPaへの急激な減少がみられた。低強度帯は800〜1050mまで広がっており、836〜870 m では、特に低い強度が得られた。この区間では、掘削作業中に孔内への流体流入も観察されている。また、反射法地震探査において、流体の存在が示唆されていた区間でもある。この流体の起源については今後の検証を要するが、本研究の結果は、先行研究で予測されていた「高間隙圧流体の存在による、プレート境界断層下部の沈み込み堆積物の弱化」を裏付ける結果となった。