日本語要旨

IODP U1425およびU1430地点から産出する放散虫群集に基づく過去950万年間の日本海古海洋環境史

放散虫は珪質の殻を持つ微小生物であり、海洋の表層から深海に渡って広く分布し、環境変動に対し鋭敏に反応する。そこで、本研究では、放散虫化石を利用して、過去約1000万年間における日本海の古海洋環境復元することを目的として、統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program;IODP)第346次航海で、日本海の大和堆上および周辺に位置する2地点(U1425地点およびU1430地点)から得られた海洋コア堆積物に含まれる同群集の解析を行なった。

新第三紀における日本列島および周辺地域での活発な造構運動のため、日本海と太平洋を繋ぐ海峡の水深は時代と共に大きく変化した。放散虫群集は、今から780〜950万年前にはフォッサマグナ周辺は浅い海でありそこから暖流が日本海に流れ込んでいた可能性を示す。また、同時期には北の海峡(現在の津軽海峡周辺)は水深が約1000mであり、同海峡を経て、低酸素濃度の中層水が北太平洋から日本海に流れ込んでいた可能性が指摘される。一方、日本列島の隆起により、780万年前頃にフォッサマグナが閉鎖するとともに、北の海峡の水深も浅くなったと推定される。また、700〜950万年前における暖流と低酸素の中層水の流入には周期的変化が見出された。

また、本研究により、汎世界的規模の気候イベントであるLate Miocene cooling等が日本海の海況に影響を与えていた事が明らかになった。例えば、550〜700万年前と270万年前のグローバルな寒冷化イベントは日本海の海況に大きな影響を与え、放散虫の寒冷種が増加したことが明らかになった。一方、約500万年前には地球規模の温暖化があったことが知られているが、日本海においても、同時期は温暖な環境となったことが、本研究のデータから復元された。