日本語要旨

熱帯アジアモンスーン域における人為起源エアロゾルに対する大気水循環の応答とその季節性

本研究では、熱帯アジアモンスーン域(南アジアモンスーン、東南アジアモンスーン、西太平洋モンスーン)における人為起源エアロゾルによる大気水循環への影響について、大気海洋結合モデル(MIROC-ESM)を用いて調べた。人為起源エアロゾル影響など全ての気候影響要因を含んだ歴史再現実験(HIST)と人為起源エアロゾル影響を排除した感度実験(piAERO)を実施した(それぞれ3種類の異なる初期値を用いてアンサンブル実験を行った)。piAERO実験の設定は、HIST実験とほぼ同じだが、人為起源エアロゾル排出量のみ産業化以前の値に固定した。2種類の実験の差から、人為起源のエアロゾルの影響を見積もることができる。結果として、夏季・冬季ともに、アジアモンスーンの降水量は、エアロゾル増加に伴い、全体として減少した。この降水量減少は、アジアモンスーン地域の近海の地上気温低下に伴う、可降水量の減少と整合的である。この地表気温の低下は、エアロゾルの直接効果と間接効果の和により説明できる。また、エアロゾル増加が空間的に不均一なことによる地上気温の東西方向の勾配により、ウォーカー循環が変化すると考えられる。このウォーカー循環の変化は、熱帯アジアモンスーン域の下降流偏差と降水量の減少と一致している。さらに、過去の研究では、インドモンスーン域(南アジア)の降水減少は、局所的なハドレー循環の影響であるとされていたが、本研究の実験では、局所的なハドレー循環の変化(もしくは、熱帯収束帯の移動)は、アジアモンスーン域においては不明瞭であった。つまり、熱帯アジアモンスーン域では、降水量減少に伴うハドレー循環の変化はみられなかった。さらに、大気水循環の変化について、詳細な空間パターンを調べると、明瞭な季節性があった。具体的には、熱帯アジアモンスーン域では、熱帯擾乱が活発な帯域において、明瞭なシグナルが見られたが、夏季と冬季での熱帯擾乱が活発な帯域の変化に伴い、明瞭なシグナルも同様に季節変化していた。しかしながら、本研究の結果は、現状の気候モデルのエアロゾル-雲-降水相互作用に関連する不確実性や気候モデル内の内部変動の影響を含んでおり、さらなる研究が必要である。