日本語要旨

統合深海掘削計画第346次航海で日本海から得られた明暗縞堆積相の完全連続物性記録の構築およびその古海洋学研究への利用可能性

堆積物に残された地質記録を過去の気候・海洋環境変動として読み取るためには,堆積層序を必ず最初に確立せねばならない.統合深海掘削計画(IODP)第346次航海(Exp. 346)では,9つの掘削地点それぞれにおいて3箇所以上の掘削孔から Advanced piston corer(APC)を主に用いて擾乱の少ない堆積物コアを得た上で,航海中にそれらをスプライスする(連続になるようにつなぎ合わせる)ことで層序を確立した.第346次航海中に行われたスプライス作業に加えて航海後も我々は作業を続け,各地点において層相が乱れた部分,堆積物の消失部・重複部をコア試料のデジタル画像から詳しく再チェックし,同地点の別の掘削孔から得られている乱れのない層相部位と入れ替えることでスプライス層序の修正を行った.

この作業にあたり,我々は修正された層位と航海中に作成されたスプライスの層位との対応表を準備することで,層序記録を利用する研究者が修正過程を追跡し,クロスチェックできるように工夫した.さらに作業過程で,堆積物のデジタル画像から得られるRGB値と,航海中に可視光反射率分光測色計で定量測定された堆積物の色彩値との間の簡易な相互変換法を確立し,色彩値に関してはmmオーダーの連続記録を検討することも可能となった.

以上の作業によって,日本海のU1422-U1427およびU1430地点について,ほぼ完全に連続な完新世・更新世の堆積物柱状図および物性(帯磁率・GRA密度・自然ガンマ線放射・色彩値)記録が確立された.同様の作業は,U1425およびU1430地点の鮮新世−中新世の堆積物に対しても行われた.これらの修正された連続層序記録は全て公開されている.このような日本海の完全連続層序記録は,東アジア地域の気候や北太平洋地域の海洋の長期変動をより詳しく,より深く理解するために役立つであろう.