日本語要旨

地震と降雨に伴う阿蘇山での斜面崩壊-UASとSfM多視点ステレオ写真測量を用いて-

近年、無人航空機システム(UAS)とStructure from Motion(SfM)多視点ステレオ写真測量の技術により,高精細な空中写真と地形データの取得が可能となり、地球科学の分野においてもそれらの利用が急速に進んでいる。本研究の目的は、これらの技術を用いて、2016年熊本地震(Mw 7.1、以下「熊本地震」と呼称する)に伴う、阿蘇山・仙酔峡地域(1.0 km2)での斜面崩壊地の地形的特徴と土砂生産量を明らかにすることである。対象地域は、1990年、2001年、2012年など、これまで頻繁に豪雨に伴う斜面崩壊が発生した場所でもある。そこで、2012年7月九州北部豪雨と熊本地震に伴う斜面崩壊地の地形的特徴と土砂生産量を比較・検討した。

本研究では、熊本地震前後の2016年3月と5月に、UASを用いて高精細な空中写真と地形データを取得した。データの空間解像度は、それぞれ0.06 mである。これらのデータから、熊本地震に伴う54箇所の斜面崩壊地(9.1–3994.6 m3)を判読した。熊本地震に伴う斜面崩壊は、その多くが尾根付近で発生し、2012年7月九州北部豪雨に伴う斜面崩壊地の上部斜面が崩れたものであった。この結果は、熊本地震に伴う斜面崩壊の発生には、対象地域の地形的特徴と過去の斜面崩壊履歴を反映した地震波の増幅が重要であったことを示している。熊本地震に伴う斜面崩壊の平均崩壊深は1.5 mであった。これは、豪雨に伴う斜面崩壊の平均崩壊深(0.7 m)よりも深いものであった。また、熊本地震時の斜面崩壊による土砂生産量は、2.5 × 104 m3/km2であった。この値は、過去の豪雨時の斜面崩壊による土砂生産量と同等である。つまり熊本地震は、対象地域の地形変化と土砂生産に、過去の豪雨事例と同等の影響を与えたことを示唆している。