断層タイプを考慮した断層傾斜角推定のための重力偏差テンソルの固有ベクトル
- Keywords:
- Fault dip, Gravity gradient tensor, Eigenvector, Normal fault, Reverse fault, Kurehayama fault
断層やカルデラ壁の傾斜角は、それらの形成メカニズムを理解する上で重要な役割を果たす。断層傾斜角は、災害発生領域やそこでの災害の程度の推定に大きな影響を及ぼすため、ハザードマップを作成する際の重要なパラメータの一つである。
本論文では、測線上で観測された重力偏差テンソル、あるいは測線上の重力異常から計算された重力偏差テンソルの固有ベクトルを用いて断層傾斜角を推定する手法と、その特性を示した。本手法は、重力偏差テンソルの最大および最小固有ベクトルの傾きから断層傾斜角を推定するものであり、最大固有ベクトルは、高密度物体の方向を向き、最小固有ベクトルは、低密度物体の方向を向くという特性が数値シミュレーションにより示された。また、この手法を断層構造に起因する重力偏差テンソルに適用したところ、その最大固有ベクトルは正断層の断層傾斜角を、最小固有ベクトルは逆断層の断層傾斜角を示すことも明らかにされた。このことから、重力偏差テンソルの固有ベクトルを用いた断層傾斜角の推定では、断層のタイプによって、採用すべき固有ベクトルが異なることが示された。
フィールドへの応用例として、富山平野をほぼ南北に縦断する呉羽山断層を選び、その断層傾斜角を本手法により推定した。この地域では、重力偏差探査が実施されていないため、断層に直交する測線上で得られている重力異常を重力偏差テンソルに変換し、本手法を適用した。その結果、呉羽山断層の傾斜角は、42°と推定された。これは、地形、地質、地震波探査から推定されている断層傾斜角45°と調和的であった。
本解析では、重力偏差テンソルが必要である。しかしながら、重力偏差探査は、現在限られた地域でしか実施されていないため、重力異常から重力偏差テンソルを計算する必要がある。本論文では、測線上の重力異常から重力偏差テンソルを計算する手法も示した。