雑微動を用いた箱根火山活動に伴う地震波速度構造の時間変化の検出
- Keywords:
- Seismic velocity changes, Ambient noise, Passive image interferometry, Autocorrelation function, Hakone volcano, Earthquake swarms, Volcanic activity
雑微動の自己相関関数(ACF)の時間変化は,地殻構造の時間変化をモニタリングする有用なツールとなりうる.本研究では,近年活発な火山活動が発生している箱根火山においてACFの時間変化を求め,火山活動と速度構造変化との関係について調査した.
箱根火山は伊豆衝突帯北部に位置し,周囲を直径約15kmの外輪山に囲まれる活火山である.箱根カルデラ内では群発地震が頻繁に発生しており,本研究では活発な地震活動が観測された,2010年~2013年の期間を解析対象とした. このうち,2011年の地震活動は東北地方太平洋沖地震直後に発生し,この地震により誘発された活動と考えられる.2013年1月から2月末にかけて発生した群発地震活動の際には,周辺のGNSS(Global Navigation Satellite Systems;全地球衛星測位システム)観測点及びカルデラ内の傾斜計に火山活動に伴う地殻変動が観測され,そこから中央火口丘下深さ7kmに球状圧力源及び地表付近に開口クラックが推定された.
本論文では,箱根カルデラ内及び周辺に設置された,神奈川県温泉地学研究所,防災科学技術研究所,気象庁地震観測点における,2010年10月から2013年12月末までの期間の連続地震波形記録を解析に使用した.上下動成分の波形記録に1〜3Hzのバンドパスフィルター処理を施すとともに振幅値を1bitに規格化し,1日毎のACFを求めた.さらに1日ごとのACFに対して,一様な速度変化から予測される時間遅れだけ波形を引き伸ばし(あるいは圧縮)してリファレンスとなるACFとの相関をとり速度変化率を推定した(図1).
2013年群発地震活動の際には中央火口丘にある駒ケ岳観測点で2012年末から徐々に地震波速度が低下していることが推定された.また,噴気地帯のある大涌谷観測点では2013年1月末に急激な速度低下が推定された.駒ケ岳観測点での速度低下は深さ7km付近の球状圧力源の膨張開始時期,大涌谷観測点での速度低下は火山浅部での開口クラックの変動開始時期に対応する.そのため,これらの速度低下は火山活動に伴う変動源により観測点近傍に生じたひずみ変化に起因している可能性がある.一方,2011年東北地方太平洋沖地震後には,より広範囲の観測点で急激な地震波速度の低下が検出された.この地震に伴う大きな地震動により火山内部の熱水分布が影響を受けたことに起因すると考えられる(図2).