放射強制力に対する地球平均地上気温の過渡的応答に関する理解の現状
- Keywords:
- Transient climate response, Equilibrium climate sensitivity, Climate feedback, Ocean heat uptake efficacy, Efficacy of forcing
観測された気温変動がどのような原因で起きたのか、将来どのくらいのスピードで地球が温暖化するのか、二酸化炭素の排出を削減してその濃度を安定化させた場合、その後まだどのくらい温暖化するのか、などの実用的な疑問に答えるためには、放射強制力に対する長い時間が経過した後の平衡応答を理解するだけでは不十分であり、時間変化する過渡応答を理解する必要がある。これまでの研究では、放射強制力が与えられたときに温暖化の程度を決める気候フィードバックパラメータは気候システムに固有なものであり、一定であると仮定されて議論が進められることが多かった。しかし、最近の研究では、この仮定によって将来の気候予測に影響の無視できない誤差が生じることが明らかになってきた。本総説では、まず気候フィードバックパラメータが一定のときに、気温上昇率を決める要因についてレビューする。次に、気候フィードバックパラメータが変化する要因を説明するために導入された「海洋熱吸収のエフィカシー」と「放射強制因子のエフィカシー」という比較的新しい2つの概念を紹介する。海洋熱吸収のエフィカシーは、海洋熱吸収によってもたらされる過渡的温暖化応答を平衡応答と関連付けるための概念であり、放射強制因子のエフィカシーは、CO2以外の放射強制因子による気温上昇をCO2による気温上昇と関連づけるための概念である。これらの概念は、放射強制力の定義や計算にも深く関係する一方、「海洋熱吸収のエフィシェンシー」など類似の専門用語もあり、必ずしも広く理解されていない。本総説では、日本の数値気候モデルMIROCを用いて数千年積分を行った実験データを例に挙げながら解説を補足する。最後に、最新のIPCCレポートにも関係するCO2倍増時の気温上昇幅を示す平衡気候感度の推定の問題に触れ、今後の課題や推奨される方向性について言及する。