日本語要旨

地球集積過程における衝突由来の溶融

地球を含む惑星の形成期においては、惑星は、ジャイアントインパクトなどの大きな衝突現象を繰り返し受けながら成長していった。そのような衝突では、惑星表面を溶融させるほどのエネルギーが解放されたため、原始惑星の表面はマグマの海で覆われていたと考えられる。そのマグマの海では、金属成分(のちの核物質)と珪酸塩成分(のちのマントル物質)が共に溶融しており、マグマの海の底における金属成分と珪酸塩成分の平衡圧力・平衡温度条件が、核とマントル間の元素分配を支配することになる。すなわち、地球内部の化学分化を議論する上で、マグマの海の底の環境解明は極めて重要な研究対象である。そこで衝突速度、衝突角度、各天体の質量を考慮したシミュレーションを用いて原始惑星での衝突現象を再現することで、衝突によって生成されたマグマの量(マグマの海の底の深さ)を推定し、金属‐珪酸塩の平衡の温度・圧力条件を決定した。本論文によって、マグマの海の深さは衝突の間隔よりも溶融状態の保持時間(マグマが固化するまでの時間)に強く依存していることが明らかになった。この溶融状態の保持時間は惑星の冷却とも関連している。大気や地殻の形成によってマグマからの熱の放出が抑制されると冷却速度が遅くなるため、大気や地殻の有無を考慮する必要がある。また、シミュレーションにより、溶融状態の保持時間やマグマの深さは、衝突した天体の数や質量などの初期パラメータに依存することも分かった。今後、上記の結果に多段階核形成モデルを組み合わせることで、地球の集積歴史をより制約することができ、現実的なシナリオを決定できると期待される。