日本語要旨

雲解像モデルへのダウンスケーリング型エアロゾル導入システム(ALICIS)開発レビュー

PM2.5(大きさが2.5μm以下の微粒子)といった用語に代表される、大気中微粒子が拡散集合したものはエアロゾルと総称される。高濃度のエアロゾルは視界不良や人体への健康影響を引き起こす。とりわけ中国における大気汚染は近年のニュースを騒がせている。一方で、エアロゾル粒子は大気中の雲粒子の生成に重要な役割を果たしている。これは、大気中の水蒸気が凝集して水や氷の粒子を形成する際に、エアロゾル粒子が核として作用するためである。この効果を通じて、エアロゾルの濃度、組成は雲や降水の性質に密接な関係がある。

エアロゾルが雲に及ぼす影響について、これまで観測とモデルシミュレーションの両面から様々な研究が行われてきた。そのモデルシミュレーションにおける問題点の一つとして、エアロゾルと雲の空間スケールにおけるギャップをどう埋めるかという課題がある。エアロゾルの発生源からの輸送を予報するためにモデル計算領域を広くしたい一方で、雲の発達過程を精度良く表現するためには解像度を細かく設定しなければならない。この空間スケールギャップを克服するための手段の一つとして、広域低解像度モデルから狭域高解像度モデルへのダウンスケーリングが用いられている。

本論文は、雲解像モデルシミュレーションへのダウンスケーリング型エアロゾル導入システム(ALICIS)について、その研究背景と開発履歴、計画をレビューしたものである。ALICISの導入により、現実的なエアロゾル濃度の時空間分布と、雲粒子形成に重要なエアロゾル粒子サイズ分布の情報が、雲解像シミュレーションに補完される。これらの情報の補完は、モデルシミュレーションにおける雲の微物理特性の再現性を大幅に向上させることがこれまでの研究の中で実証されている。