ペルム紀中期末における自成炭酸塩の沈殿:古海洋の炭素循環への示唆
- Keywords:
- Middle Permian, South China, Anoxic deep-water, Authigenic carbonate, Carbon isotopic composition, Oxic/anoxic oceans, Redoxcline depth, Water-mass anaerobic respiration
炭酸塩の沈殿は、グローバルな炭素循環における主要なプロセスの1つである。近年、過去の炭素循環における自成炭酸塩の重要性が注目されている。これまで、過去の海洋で沈殿した自成炭酸塩の炭素同位体比は、当時の海水の溶存無機炭素(DIC)の炭素同位体比と比較して著しく低いと、暗に仮定されてきた。しかし、過去の自成炭酸塩の炭素同位体比の詳細は明らかにされていない。
本稿で、われわれは、中国・四川省のペルム紀中期末の地層中から産出する自成炭酸塩について報告する。大陸縁の斜面で堆積した黒色泥岩・チャート互層中からは、方解石の単結晶が多産する。その組織は、それらがその場で生成した自成炭酸塩であることを示す。自成炭酸塩の産出層準は、貧酸素水塊が発達しその中で嫌気呼吸がおきた層準と一致する。自成炭酸塩の炭素同位体比(平均約–1‰)は、地層中の有機物の炭素同位体比(約–26‰)と比較して高く、このことは自成炭酸塩の炭素が主に水柱のDICに由来することを示す。これらの自成炭酸塩は、堆積物中ではなく、海底付近で生成したと考えられる。
本研究の結果から、われわれは、地球史における自成炭酸塩の沈殿様式が、好気的な海洋と嫌気的な海洋とで異なる可能性を提案する。現在の海洋で観察されるように好気的な海洋では、自成炭酸塩は堆積物中で生成し、その炭素同位体比は低い。これに対して過去の嫌気的な海洋では、自成炭酸塩は海底付近で生成し、その炭素同位体比は比較的高いと考えられる。われわれのモデルに従えば、自成炭酸塩が地質記録に与える影響は、先行研究が指摘したよりも小さい。また、自成炭酸塩に起因する地質記録の炭素同位体異常から、古海洋の酸化還元状態を復元できる可能性がある。