古海洋学・古気候学研究への海底テフラの利用:日本海堆積物を例として
- Keywords:
- Tephra, Key bed, Japan Sea, Stratigraphy, Chronology, Paleoceanography
テフラは大噴火の産物であり,給源火山から数千km離れた場所にも堆積する場合がある.テフラは陸域,湖沼域,海域,雪氷域などの異なる環境下にも同時に堆積するので,地質学的に非常に重要な同時間面となる.プレート境界域の変動帯に位置する日本列島には多数の火山が存在し,日本列島とその周辺海域にテフラを供給してきた.したがって,これらのテフラを正確に同定・対比することで異なる環境あるいは地点間の堆積物記録を比較することが可能である.また,連続した堆積物である海底堆積物中のテフラを十分に活用することで,より正確な層序モデルの構築が可能である.特に,明暗互層で特徴づけられる日本海堆積物では,テフラを介して,より正確な層序対比が可能である一方,特徴が似た別のテフラを暗色層層序との関係から区別することも可能である.したがって,日本海堆積物中のテフラ層序はより精度の高いものとなりうる可能性がある.さらに,テフラの化学組成の時空間変化は島弧域のマグマ進化の記録であり,広域的なテクトニクスとの関係を論じられる可能性をもつ.
古気候学的には,テフラは異なる環境下での古気候イベントをつなぐ鍵層となる.例えば,琵琶湖や水月湖などの湖沼堆積物の古気候記録と日本海堆積物中の古気候記録の前後関係あるいは同時性をテフラを介して比較することは汎世界的な気候変動様式の理解の上でも重要である.また,陸域と海域において同一のテフラの放射性炭素年代を比較することは,海洋レザバーの時空間変化を知る一つの方法である.海洋レザバー値は海洋循環などの影響を受けるため古海洋変動解明に有用であるほか,より正確な古気候イベント発生時期の特定のためにも重要である.
このように,テフラは層序学,年代学,火山学のみならず,古海洋学や古気候学の上でも重要である.