日本語要旨

コア・マントル境界におけるホットスポットのコア対流およびダイナモに対する影響

地球型惑星の液体金属コアにおける対流とそれに伴うダイナモ作用によって生成される磁場は,コア・マントル間の相互作用の結果として決まる.特に,下部マントルの熱的構造はコアから流出する熱量を決めるため,コア対流やそのダイナモ作用に対し大きな影響を及ぼす.このようなコア・マントル境界(以下CMB)を通したコア・マントル熱的相互作用の影響をうけたダイナモ作用が初期火星コアで駆動した結果,現在の火星にみられる地殻残留磁化の南北非対称が形成されたという説も提唱されている.

本研究では,ジャイアントインパクトやマントルプリューム形成などによって局在化したCMB 熱流出が,コア対流と生成される磁場の構造に対して与える影響を数値シミュレーションにより調べた.具体的には,CMB におけるホットスポットを,その空間的広さ,強さ,位置によってパラメータとして表現し,回転球殻内の熱対流および自己撞着的磁気流体力学(MHD)ダイナモの二種のシミュレーションを行った.その結果を,コア内の流れ構造における対称性の変化として定量的に解析した.

その結果,CMBホットスポットの広さと振幅にほぼ比例して,コア対流における軸対称・赤道非対称性が強くなることがわかった.ただし,ダイナモ作用により生成された磁場のバックリアクションが存在する場合には,主にホットスポットの広さによって,この対称性は大きく変化する.コア内の流れ構造や生成される磁場構造に顕著な影響が現れるためには,CMBホットスポットの広がりがコア半径と同程度である必要があることが示唆された.また,詳細なパラメータサーベイの結果,このモデルを想定した場合に生成される磁場は,非対称性が弱く,極性の反転が頻繁に起こることがわかった.これは,火星地殻で観測されているような深い地殻残留磁化とは整合的でないため,このモデルによって火星の地殻残留磁化における南北非対称性を説明するのは難しいことが示唆された.