水とマグマ:赤外,ラマン,29Si固体NMR分光法によるアルカリシリケイトメルト中への水の溶解メカニズムについての洞察
- Keywords:
- Melt, Glass, Structure, Water bonding, Water speciation, NMR spectroscopy, Raman spectroscopy, Viscosity, Magma, Fragmentation
火山体内部を上昇中の含水マグマから水の脱ガスが起こると,マグマの密度や粘性は大きく変化する.そして,その様な変化が噴火のダイナミクスに大きく影響することになる.このとき,マグマからの水の離溶がいつどの様に起きるかについては,シリケイトメルト中への水の溶解度や溶解メカニズムにより左右される.これまでの研究によると,シリケイトのガラスやメルト中に溶解している水は,分子(H2O分子種)として存在するものと,-OH水酸基として存在するものがあることが知られている.後者の-OH水酸基は,一般的にはSi4+と結合していると考えられているが,例えばアルカリ元素やアルカリ土類元素の陽イオンと結合する場合もあるであろう.どういった結合形態をとるかによって含水メルトの構造は変化し,ひいてはメルトの物性も変化することとなる.したがって,溶解している水が元々どの様な結合をしていたかにより,マグマからの水の離溶が及ぼす噴火様式への影響も違ったものになると考えられる.しかしながら,シリケイトメルト中への水の溶解メカニズムは,その重要性にもかかわらずまだ十分に明らかになってはいない.なかでも水の溶解度や溶解メカニズムが,メルトの化学組成の違いによってどの様に変化するのかに関しては,よく分かっていない.このような内容を明らかにするため,本研究ではアルカリ(Li,Na,K)シリケイトメルトの急冷ガラス中の陽イオンネットワークと水がどの様に相互作用しているのかについて,実験的に決定した.29Siシングルパルス・マジック角回転核磁気共鳴法(29Si SP MAS NMR),赤外及びラマン分光法による分析から,シリケイトメルト中のアルカリ元素の陽イオン半径が小さくなるにつれて,-OH水酸基として溶解する水の割合が減少することが判明した.また,アルカリ元素とOHとの結合の性質は,イオン半径の大きさにより変化するということも明らかになった.一般に,メルトの重合度というものはメルト中に存在する化学種や水の結合状態により規制されている.よって,シリケイトメルトの物性に及ぼす水の影響は,メルトの化学組成によって違ったものになる可能性が予想される.今後,含水マグマの粘性緩和に関連する火山現象(例えば爆発的噴火における破砕過程など)を議論する上においては,本研究で明らかになったこれらの事実を考慮する必要があるであろう.