日本語要旨

日本とその周辺地域でのLg波の伝播:観測とシミュレーション

図2 3次元差分法によるLg波伝播シミュレーション。b−b’断面に沿っての地表(海底下)での地震波形、および地下断面での地震波のスナップショット(地震発生から80,200,320,440秒後)である。緑色はS波(モホ面を伝わるSn波、地殻内を伝わるLg波)、赤はP波(PnPg波)を表す。震源(☆印)から放射されたS波が、地殻内で広角反射を繰り返してLg波が形成される様子や、日本海を通過する際に薄い地殻を突き抜けてマントルにエネルギーが抜けるとともに、海底面でP波に変換して海水層にエネルギーが取り去られる様子が分かる。この結果、上図の地震波形からもわかるように、Lg波が急激に弱まる。

日本列島に高密度で設置されたHi-net高感度地震計記録等を用いて、日本とその周辺でのLgの伝播特性を調査し、高速スパコン(地球シミュレータ)を用いた地震波伝播シミュレーションを行って、地殻の不均質構造とLg波の伝播特性の関係を調べた。30万本の地震波形記録を用いて、Lg波の伝播地図(図1)を作成したところ、西南日本ではLg波がよく伝わり、東北日本ではよく伝わらないという地域性がわかった。Lg波の良い伝播経路が朝鮮半島を通ってアジア大陸へと繋がっていることから、対馬海峡を挟んで地殻構造が連続していることが示唆された。一方、日本海はLg波が全く伝わらない。日本海下の地殻は、大陸や日本列島(35km程度)よりも薄く、せいぜい10 km程度しかないこと、また海水に覆われていることなど、海域の地殻構造がLg波伝播の阻害と関係していると考えられる。そこで、人工地震探査等の研究から求められた、地殻・マントルの3次元構造モデルを用いて、差分法シミュレーションを行って日本海のLg波伝播を再現した。計算の結果、日本海下で地殻の厚さが急激に薄くなることで、Lg波は地殻内に留まることができなくなり、マントルへと抜け出すこと、またLg波(S波)エネルギーの一部が海底面でP波に変換して海水中に取り去られことで、Lg波の急激な減衰が起きていることがわかった(図2)。

Lg波とは:地殻の中を地表とモホ面で全反射を繰り返しながら、地殻に閉じ込め込められて伝わる短周期(f=0.2-5 Hz程度)S波である。震源の浅い(<50 km)地震にみられ、安定な大陸地殻では1500 km以上の遠地でも観測される。Lg波は、浅発地震のマグニチュード(M_Lg)の推定や、地殻の減衰構造(Q_Lg)の評価、核実験探知(自然地震と人工地震の区別)などに広く用いられている。