日本語要旨

付加体中の断層岩から洞察した沈み込み帯における地震断層運動

沈み込みプレート境界に沿って発生する地震は,地球上において解放される地震モーメントのほとんどを担い,しばしば地盤振動や津波によって甚大な被害をもたらす.沈み込みプレート境界地震の多くは深海下で起こるため,沈み込み帯における地震断層運動のダイナミクスは良く分かっていなかった.しかしながら,統合国際深海掘削計画として実施されている南海トラフ地震発生帯掘削計画やプレート境界地震震源域から上昇し現在地表に露出する付加体中の断層岩研究により,沈み込み帯における地震断層運動の理解が飛躍的に進んだ.この総説論文では,南海トラフ沈み込み帯とその陸上アナログである四万十付加体に特に焦点をあて,過去10年間で鍵となる前進をもたらした断層岩と断層帯物質を用いた室内実験の研究成果を中心に紹介する.沈み込み帯における地震断層運動に関する新しい洞察は,以下の4点に要約することができる.

(1)沈み込み帯浅部と深部において,速度強化の摩擦特性を示す物質に沿って地震性滑りが起こったことが示された.

(2)地震時の断層の動的弱化は熔融潤滑や粉砕物の流動化によるものであることが判明し,地震時の変形メカニズムを支配しうる要因が明らかとなった.

(3)地震時の岩石–流体相互作用や鉱物学的・地球化学的変化が明らかとなった.

(4)地質学的・実験的視点からスロー地震群が検討されるようになった.