日本語要旨

硫黄除去反応炉を搭載した“改良型細径管EA/IRMS法”:高感度、かつ硫黄による分析妨害をおこさせない窒素・炭素同位体分析法の最適化

元素分析・同位体比質量分析計 (EA/IRMS) は、窒素と炭素の安定同位体比分析に広く使用されている。細径管EA/IRMS法は、標準的なEA/IRMS法に比べて高感度であり、低有機物含有量の試料分析に効果的である。しかし、硫黄含有量が高い試料の分析を行う際には、硫黄による干渉が発生し、分析精度の低下が生じる場合がある。本研究では、硫黄による分析妨害問題に対処するために、既存の細径管EA/IRMS システムに脱硫炉を組み込んだ。本改良法により、高感度(従来の方法に比べて約 5 倍)と高硫黄耐性(従来の方法よりも最大 580 mg S を超える硫黄耐性)が実現した。さらに、本手法を海底堆積物、海底熱水鉱床の硫化物チムニー、海底熱水域の堆積物など、有機物を少量しか含まず、硫黄分を大量に含むサンプル(S:C 比: 0.7~343.1)の窒素・炭素分析に適用した。組込型の脱硫炉は、装置内部での硫黄分の除去が可能であることから、安定同位体分析への適用のみならず、放射性炭素分析におけるグラファイト作成の前処理工程への応用にも有効だと考えられる。
また、EA/IRMS 分析における硫黄由来の干渉について調査した。その結果、SO2分子イオンとフラグメントイオンに由来するブロードな非整数ピーク(質量分析計の飛行管内で生成された準安定イオンと電荷交換に起因すると推測)が観測され、SO2によってN2とCO2のバックグラウンド(BG)が上昇した。同様にN2とCO2に起因する非整数ピークの発生も観測され、N2によるCO2の、そしてCO2によるN2とSO2のBGへの影響が観測された。
目的ガス成分以外のガスによって、目的ガス成分のBGが影響を受ける場合がある。BGが影響を受けると、目的ガス成分の同位体比計測に影響が及ぶ。IRMSを用いた分析において、高精度な分析を行うためには、目的ガス成分とそれ以外のガス成分の分離が重要であることは広く知られている。本研究では、その重要性の理由の一端が、目的ガス成分以外のガス成分による、装置内部での不可解なピーク(整数ピークではなく、ブロードな分布を持つ非整数ピーク)の発生であることを示された。