遺跡出土骨の微量放射性炭素年代測定のためのヒドロキシプロリン単離・精製法の開発
- Keywords:
- Amino acid, Hydroxyproline, Bone collagen, Archaeological bone, Radiocarbon dating, Liquid chromatography, Accelerator mass spectrometry
考古学や人類学では、遺跡が何年前の人類の活動の痕跡であるかを知る、年代推定が重要である。その一つとして、遺跡から見つかる人骨や動物骨の死亡時期を明らかにするため、骨中のコラーゲンの放射性炭素年代測定が広く行われている。しかし、数千年~数万年にわたって土壌中に埋没していた骨から抽出されたコラーゲンには除去不可能な炭素汚染が残ることがあり、信頼できる年代推定が困難な場合がある。また、文化財である遺跡出土骨は破壊を伴う試料採取を最小限にする必要があり、より少ない量の骨試料で放射性炭素年代測定をすることが望まれていた。
近年は汚染が少なく信頼性が高い年代を得る方法として、骨コラーゲンの主要なアミノ酸である一方で土壌から混入する可能性の低いヒドロキシプロリンを単離して年代測定する方法が提案されている。この方法では高速液体クロマトグラフィーによってコラーゲンを構成するアミノ酸からヒドロキシプロリンを単離するが、単離工程からの外来炭素のコンタミの懸念があり、特に遺跡出土骨で求められる微量での放射性炭素年代測定において障害となっていた。
本研究では、遺跡出土骨中の単一のアミノ酸、特にヒドロキシプロリンで正確な放射性炭素年代を測定するため、単離後の精製手法を開発した。単離後に液-液抽出と再結晶化という2段階の精製プロセスを用いることで、単離アミノ酸中の外来炭素が大幅に低減された。この手法により、100μg未満の炭素含有量でも単離アミノ酸の放射性炭素年代測定が可能となり、従来の方法に比べて年代測定に伴うコラーゲンや骨試料の破壊を小さくできた。本手法は、これまで年代が得られていなかった劣化した遺跡出土骨で放射性炭素年代測定を可能とするだけでなく、地球惑星科学分野の研究対象である海洋や土壌堆積物中のアミノ酸やその他の有機分子を分離し、同位体分析する方法としても有用である。