日本語要旨

西部北太平洋における早春の水塊構造と生物地球化学的過程の日周および日変化

海洋表層における物理および化学場の短時間変化が生物過程に与える影響を評価するため、亜熱帯観測点KEO(北緯32.5度、東経144.5度)において、2024年2月21日18時から24日18時までの72時間にわたり、表層から300m深まで3時間毎のCTD観測と生物地球化学的パラメータ測定用の採水を行った。混合層深度は、観測開始時から2月24日6時まで100m以浅であったが、その3時間後には150mまで深化した。物理的および生物地球化学的パラメータの時間変化から、観測した海水を5つのタイプに分類した。タイプI:2月21日18時から2月23日9時にかけて0-50m深で観測された水塊で、硝酸の窒素・酸素同位体比に顕著な日周変化が認められた。この水塊の同位体比の変化は、日中に植物プランクトンが光合成に伴い硝酸を取り込み、夜間に下層から栄養塩が供給されたことを示唆していた。タイプII:2月21日18時から2月23日にかけて50-150m深で観測された水塊で、その中の硝酸濃度と同位体比は、光合成の影響を強く受けるタイプIとトワイライト層であるタイプV(後述)の水の混合により変化した。タイプIII:2月24日9時以降の深化した混合層(0-150m)内の水塊で、水温はタイプIより低く、硝酸の同位体比には有光層深度(約72m)より深いところでも植物プランクトンによる硝酸取り込みの影響が見られた。また、植物プランクトンの群集組成もタイプIとは異なっていた。タイプIV:2月23日12時から18時に50-100m深で観測された水塊で、高濃度の栄養塩を含んでいた。この水塊は、観測点とは別の場所のトワイライト層から有光層下部に短時間で三次元的に湧昇したと考えられる。タイプV:観測期間中150m以深で観測された水塊で、物理的および生物地球化学的パラメータの時間変化はほとんど認められなかった。本観測は、比較的栄養塩濃度の低い亜熱帯海域でも、早春に有光層中で活発な一次生産が行われていることを明らかにするものであった。また、2月24日に観測された表層付近の水塊の短時間の変化は、異なる物理的・生物地球化学的特性を有する水塊が隣接している示すものであった。