日本語要旨

大分県姫島と鹿児島県昭和硫黄島の浅海CO₂噴出域の生物地球化学特性

海底から火山性のガスが噴出している海域が日本の周辺でもいくつか知られている。火山ガス噴出域に関する既往研究の多くは、比較的アクセスが容易で人間社会にとって重要な沿岸の浅海域を対象に、主に火山学や地球化学の観点から行われてきた。浅海CO₂噴出域は、人間活動に伴うCO₂の排出削減が十分に進まない場合の将来の海洋環境を先取りしているとみなすことができる。よって、CO₂噴出域を詳細に調べることにより、海洋酸性化が海洋生態系に与える影響を評価・予測する上で重要な知見が得られると期待される。本研究は、日本近海の2つの浅海CO₂噴出域(大分県姫島及び鹿児島県昭和硫黄島)を海洋酸性化の観点から調べた初めての研究である。本研究の結果、いずれのCO₂噴出域周辺でも、通常海域と比べて海水のCO₂濃度が高く、pHと炭酸カルシウム飽和度が低いことが分かった。また、CO₂噴出域周辺での生物相の変化と生物多様性の減少も確認された。つまり、海洋生態系保全の観点から、人為CO₂の大幅な削減による海洋酸性化の緩和が不可欠であることを示唆している。このように、浅海CO₂噴出域は、海洋酸性化と海洋生態系への影響を実証する天然の実験場として機能する。本研究で調査した浅海CO₂噴出域はいずれもジオパークの中にあり、これらの浅海CO₂噴出域をスタディツアーやエコツーリズムのフィールドツアーの題材として活用することは、海洋酸性化や気候変動が海洋生物に及ぼす影響に関する認識の向上に貢献すると期待される。