中新世における棚倉断層帯の右横ずれ運動:島弧―島弧衝突による横ずれ断層の運動逆転
- Keywords:
- Tanakura Basin, Deformed conglomerate, Zircon, U–Pb dating, Fission track dating, Back-arc spreading, Arc–arc collision
島弧域におけるプレートテクトニクス規模の横ずれ断層は,背弧拡大や島弧の衝突,さらにそれに続く島弧の進化に重要な役割を果たしている.すなわち,横ずれ断層の運動は地殻ブロックの移動や地殻の変形,造山運動と密接に関係している.棚倉断層帯は日本の主要な横ずれ断層の一つであり,日本海拡大(背弧拡大)の前後に活動したことが知られている.その運動履歴を解明することは,日本海拡大テクトニクスや本州弧と伊豆―小笠原―マリアナ弧との衝突テクトニクス,その後の日本列島の島弧としての進化過程の解明を理解するうえで,極めて重要である.
本研究では,棚倉断層帯を構成する棚倉破砕帯西縁断層に沿った野外調査,変形を受けた中新世の礫岩の解析,中新統の砕屑性ジルコン年代に基づく起源解析を通じて,棚倉断層帯の中新世の運動履歴を調査した.その結果,約16 Ma以降に,棚倉断層帯では右横ずれ運動が生じたことが明らかになった.具体的には,棚倉破砕帯西縁断層の断層露頭から,右横ずれ運動の証拠が得られた.この断層運動によってカタクレーサイトを伴うような変形が生じた箇所では,引き延ばされた形状の変形礫が形成されたと考えられる.また,カタクレーサイト中には日立変成岩類に由来すると考えられる古生代のジルコンが含まれていた.このことは,阿武隈山地南部から供給された日立変成岩起源の砕屑物は,その西方域に堆積したのちに,棚倉破砕帯東縁断層の右横ずれ運動によって北北西方向へ数キロメートル移動し,現在の分布域に至ったことを示唆する.
これらの結果が示す棚倉構造帯の右横ずれ運動は,日本海拡大後に開始したフィリピン海プレートの沈み込みに起因し,本州弧と伊豆―小笠原―マリアナ弧の衝突に伴うNE–SW方向の圧縮応力によって誘発されたものと推測される.