夏季の北ユーラシアにおける大気の川の気候学的特徴
- Keywords:
- Atmospheric River, Northern Eurasia, Siberia, Arctic frontal zone, Polar frontal zone, Extreme precipitation event, Extratropical cyclones, Frontal activity, Water vapor transport, Hydrological cycle
大気の川(Atmospheric river: AR)は鋭く狭い帯状構造の強い水蒸気輸送によって特徴づけられる総観規模降水システムである。 ARは一般的には中高緯度の大陸沿岸域において、温帯低気圧、前線、および雲域の発達を伴って豪雨と洪水を発生させる気象擾乱であることがよく知られている。一方、ARは広大な大陸の内陸部においても、そのような極端気象現象を引き起こす可能性がある。本研究では夏季(6-8月)の北ユーラシア大陸上ARの構造と特徴を、水文気象学的な影響に焦点を当てつつ、43年間(1979-2021年)のデータを解析することにより調べた。使用データはJRA-55大気データ、MSWEPv2.8日降水量データ、およびISCCP雲量データである。解析期間におけるAR発生イベントは、鉛直積算水蒸気輸送量偏差の強度が一定の閾値を超えた事例で定義され、それらの空間分布に対して階層型クラスタリング手法を適用して抽出された。この解析によって、夏季北ユーラシア域のARは明確に区分できる5つの型に分類された。これらはさらに3つの内陸型AR (西シベリア型、中央シベリア型、極東型) と2つの北極海沿岸型AR (西シベリア北極域型、東シベリア北極域型) に分類された。それぞれについて、種々の大気変動量 (水蒸気輸送量、降水量、海面気圧、低気圧出現頻度、温暖・寒冷前線出現頻度、雲量、強雨発生頻度) に対して合成図解析行い、それらの水平構造と特徴を気候学的に記述した。内陸型ARは発達した温帯低気圧に伴う温暖前線に向かって東~北東方向に流れ込む形で伸長する構造を持つ。一方、北極海沿岸型ARはその中心軸がほぼ東西方向に伸長し、北極海沿岸域の温帯低気圧発達に伴う温暖前線活動域に並行している。ARに沿ってよく発達した降水帯はARと同様の形状で、降水帯形成に果たす温暖前線の役割が大きい。なお、強い降水域は深い対流雲と乱層雲によって生成されていた。